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まぁ、ね?分かる分かるーと言っても、それで納得できないのが私の乙女部分なわけで。その凹んだ部分を修復すべく、マリちゃんの「せっかく人型なんだから、外に出てみない?」という優しいお誘いに乗っかって、四人で街にお買い物に出ることにした。


「おー!視界が高い!」


いつも、人の足元ばかり見ていたスライムが、今は人の胸元ばかり見て歩いている。…何か、語弊があるかもしれないが、これでも感動しているのだ。身体の端を踏まれる心配をせずに歩けることに。


「あ!マリちゃんヒナちゃん!見て見て!串焼きだ串焼き!食べ、」


「直ぐに夕食だろうが、今、食ったら飯入らなくなんぞ。」


「…あ!見て、マリちゃん!あっちの小物屋さん!帽子が可愛い!三人お揃いで、」


「駄目だ。…魔法防御がついてねぇ。ただの帽子なら意味ねぇだろ?」


「…解散。」


「は?」


「はいはい!解散解散!我々はここで解散します!かいさーん!…てことで、お小遣い頂戴?」


「あ、おい!」


人様のはじめてのお買い物を邪魔してくるユージ―の皮袋財布から、問答無用でお金を抜き出す。小学生のお小遣いとしては破格の一万レンをゲットしてから、マリちゃんをユージーの方へグイっと。


「はい!では、私とヒナちゃん組は、このままお買い物に行きます!ユージ―マリちゃん組はお好きに。では!」


「おい!待て!待てって、シノ!」


「大丈夫―、遠くまではいかないよー。ご飯までには帰るからー。」


「いや、お前、…せめて、マリカも一緒に連れてけ、」


「マリちゃんはユージ―に魔法防御つきの帽子でも買ってもらうといいよー!」


「っ!?」


「じゃあねー!後でねー!」


手を振ったら、ワタワタしてるユージ―の腕をマリちゃんがガッチリ捕獲するのが見えた。どうやら、面倒(ユージ―)をマリちゃんに押し付けることに成功。あと、これはマリちゃん的にもWinWinだろうと、良いことした気分になる。


『よし!じゃあ、ヒナちゃん、どこ行く?シノちゃん、何でも好きなもの買ってあげるよー!』


『…本屋さん。』


『本?ヒナちゃん、本が欲しいの?』


『うん。あのね、ヒナ、字がちょっと読めるようになったから、お勉強するから、ヒナが読める本が欲しい。』


『…』


『字の練習するの、ある?』


え―?


『…ヒナちゃん、ヒナちゃん、本当にそういうのが欲しいの?』


『うん!』


おやつでも、おもちゃでもなく─?


少し、弾み気味、本当に楽しみにしている様子のヒナちゃんの反応に、それ以上は突っ込めずに本屋へと向かう。でも、だけど、思っていたのとは違うヒナちゃんの選択に込み上げる焦燥。日頃から、一切、我儘を言わないヒナちゃんが、本当に望んでるものって─


『シノちゃん、シノちゃんのお買い物は?』


『え?あ…、うーん。そうだねぇ。シノちゃんも、何か本買おうかなぁ。この世界にどんな本があるか気になるもんなぁ。』


『じゃあ、ヒナの絵本も一緒に読む?ヒナが読んであげようか?』


『本当?えー!それ、嬉しい。すっごく、楽しみ!』


『うん!』


ヒナちゃんの明るい声に引っ張られて、気分が上向く。ゆっくり歩いてたどり着いた本屋はパラドスにあったものとそう変わらず、店先には同じように周辺地図のようなものが売られていた。


(…やっぱり、地図って結構、高いなぁ。あ、でもここは中古も扱ってるのか、これならなんとか?)


もちろん、お小遣いで買うつもりはない。後でユージ―に教えてあげようと決めて、一人、店の中へと入る。


『ヒナちゃーん、シノちゃんがいい感じの絵本見つけたら、画像送るからね?選んでね?』


『わかった!』


ギリギリ、店の入り口に居るヒナちゃんが見える範囲で絵本を探す。数冊見繕った絵本の内、ヒナちゃんが気に入った一冊を買うことを決め、後は自分用にと周囲を見回して見つけた。


(あれ?これって?)


こちらの世界には珍しく、表紙にまで絵が描かれている一冊の本。描かれているのが料理の絵だったことにも興味を惹かれて手に取ってみる。


(…旅、旅行記?というか、グルメ探訪記?)


ほとんどのページに描かれている料理の絵、ユージ―のスパルタによって、いくつか分かるようになった単語を拾いながらパラパラとめくってみれば、どうやら、世界各地を食べ歩きして回った誰かの旅行記だろうという推測がついた。


更に何ページかパラパラとめくって、見つけた一ページ、そこに描かれた絵に手が止まる。


(…これ、って…)


思わず息をのんで、瞬時に決断した─


「すみませーん!これくださーい!あと、ちょっと、お尋ねしてもいいですかー?」


店の奥、会計へと足早に向かう。









「…ヒナちゃん、ヒナちゃん。」


「…ん。」


「ごめんねごめんね。でも、そろそろ行かなきゃだから、起きれる?」


「ん。」


「おっけー。じゃあ、静かにね?そーっと。」


深夜を少し過ぎた辺り。未だ夜明けには遠い時間に、ベッドから這い降りるヒナちゃんの手助けをする。


「よし。じゃあ、ちょっと、待っててね?」


まだ眠そうなヒナちゃん、その横で日中に取りそろえた荷物を背負った。腰ベルトにナイフの鞘を固定し、一瞬迷ってから覚悟を決める。


(…ごめんね、みんな。)


ナイフを抜いた─






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