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1-1 …待たせたな(意訳:人化に成功したよ!)

──くん、準備出来た?表に車回してもらってる、から…


っ!ごめ、ごめんね、私が、──さんの代わりに、私がちゃんとしっかりっ、しないとっ…いけないのに…


…うん、ごめん、大丈夫、大丈夫だよ…、ありがとう…


…行こうか?──ちゃんも、待ってるから。三人で、ちゃんと笑って、──さんにお別れしないと、だよね?


──くん、…手、繋いでく?








「…シノちゃん?」


「…あれー、ヒナちゃんだ。今日もお肌プルプルモチモチ、可愛いねぇー。」


「…シノちゃん、起きた?」


「うん?あーいや、起きてる、起きてますよー。…って、ここはどこ?」


目が覚めたらベッドの上、まごうことなき見慣れぬ天井に、傍らには天使。これ、私、今度こそ逝ったんじゃないかな?極楽極楽、って思ってたら、


「…ふむ。シノ、目が覚めたか。」


「…」


現実が、こちらを覗き込んでいる。


「…ウイ。目覚めました。ばっちりです。…で、先輩、ここは一体…」


言いかけて、周囲を見回して、二人の視線と目があった。心配そうにこちらを見つめる、三十代独身男性とゴスロリ女子高生。


「あー…」


二人の不安げな様子に、思い出し、…たく無かったので、忘れることにした。しんどいこと、全部。


「おはよー、ユージー、マリちゃん。ノアは?あ、あと先に言っとくと、落ち込んだりもしたけれど、ってやつで、私、めっちゃ元気だから。完全復活。見事な蘇り。」


「…」


「…シノさん。」


「いや、ごめん。痛々しいかもしれないけど、うん、ほんと、割と、八割がた復活してるから、本当に大丈夫よ?」


泣きそうな顔のマリちゃんには申し訳ないが、大丈夫、得意だから。しんどいの全部、後方にうっちゃって、見ない振りするのなんて─


「…ここはランウッドの宿屋だ。ノアのやつはギルドに、…依頼の報告に行ってる。」


「あー。」


「我はお主らの子守り、というわけだ。…ノアがお主を心配してな。」


「あー…」


ユージーの説明とブラウの補足に頷いて、脳に再起動をかける。


「えーっと?じゃあ、あれだ、ブラウには大変ご迷惑をおかけしました。…みんなも、心配かけてごめんね?」


「シノちゃん。」


ギュって抱きついてくるヒナちゃんを、ギュって抱きしめ返した。それを、興味深そうに眺めている美少年と目が合う。


「お主らのその共生関係については、以前から不思議に思っておったのだが、お主ら、元は『人』であったそうだな?お主ら二人は(まこと)の親子であったか?」


「…それ、ノアに聞いたの?」


「うむ。楽しそうにしておったぞ。…スライムにしては知能が高い群れだとは思っておったが、いや、興味深い。前世、生まれ変わりが存在するとは…」


「…私、正確には、人間だったっていう意識はあるんだけど、前世の記憶はないんだよね。それに、ヒナちゃんとも親子だったわけじゃない。…それでも、私にとってヒナちゃんは大事な存在だから。」


だからそんな、「共生」とか、マッドな観察者の目でヒナちゃんを見ないで欲しい。


「…ふむ、記憶がない。…なるほどな。人化の術において、シノだけ成功せなんだは、その前世の記憶が欠如しておったせいか…。己の人型を思い描く素地がなかった…?」


「まぁ、多分?」


ブラウが一瞬だけ悩んで、それから瞳をキラリとさせた。


(あ…、この感じ、やっぱり、ノアの保護者だわ。)


ヤバそう─


その一言に尽きる感じにマッド具合が増したブラウが、穏やかな笑みを浮かべて、


「のう、シノ、試してみらんか?」


「だが断る。」


「…まぁ、そう拒絶するな。我であれば、主に記憶が無かろうと、主の魂に刻まれた過去に触れることができる。…記憶を引きずり出し、主に人型を与えることも、」


「え、引きずり出すって言った?…結構です。」


「待て待て、今のは言葉の綾だ。そう構えることはない。痛くも痒くもないぞ?瞬きの間だ、一瞬で終わる、何も案ずることはない。」


「…」


予防接種に子どもを連れ出す際の母親並みの怪しさを放つブラウを横目に、ユージ―へと視線を向ける。


どうする?という私の無言の問いかけに、ユージ―がしっかりと頷いた。


(…まぁ、しょうがないかぁ。)


人化は、我々スライム軍団の擬態方法として最初から推奨されてきた。失敗しまくりの私に、ユージ―もマリちゃんも何も言わなかったけど、全員が人化出来れば生存戦略としては有利になる。だから、


「…お願いします。ブラウ先生。」


「ほぉ?やる気になったか?…まぁ、我に任せておけ。」


「…」


言った瞬間、後悔するタイプの「俺に任せとけ!」をやられて、不安しかない。ウキウキ状態のブラウが右手を伸ばし、それをこちらの頭の上に置いた。


「あのー…」


「ああ、良い良い、シノは楽にしておれ。…我が、主の…」


「…」


頭を、鷲掴みにされること暫し。私の頭部に脳みそは入ってないんだけど。何やってんのかなー?って疑問に思ってたら、いきなり、来た─


「ふむ?」


「っ!?」


こんなもんか?の顔をしたブラウに、魔力を思いっきり引っ張られるような感覚がして─


「…シノ、ちゃん?」


「え?え?」


周囲から上がる戸惑いの声。ヒナちゃんが硬直してこちらを見つめる。マリちゃんもユージーも何も言わないから、恐る恐る、持ち上げた自分の両手に視線を落として、


「っ!?何じゃこりゃーっ!?」


今世最高レベルのユウサクを決めた。視界に映るのは、プクプク感残る小振りの掌。子ども、ヒナちゃんよりは大きいだろうけど、多分、小学校、高学年くらいの手が─


「…シノ、さん、子どもだったの?」


「え?いや、そんなはずは…、あるかもしれんね?」


「シノちゃん…」


いや、だって、なんせ記憶が無い。ワンチャン、世間の汚れを知る前の輝く魂を持っていた可能性も。顔も見たいなーと、鏡、鏡、してたら、


「…シノさん、シノさんの画像送るから、見て。」


「あ!なるほど、その手が!非常に、助かります。」


直ぐにマリちゃんが意識共有で送ってくれた自分の画像、バストアップと全身像をしげしげと眺めて出した結論、


「…え?何で私が美少女に??」


「…」


つまり、「私なんか」というニュアンスでの「下げ」をもってして、自身を「美少女」と言いきって憚らない尊大さを覆い隠すという高等テクニックでの自己認識。


「お前、よく自分でそんな発言できんな?」


乙女心のわからない三十代独身男性には通用していないみたいだけど。だけど、どこからどう見ても美少女。白い肌にクリクリ丸い黒目、黒髪ボブ。日本人形系の愛らしさ。そしておでこには可愛らしいお花模様、ではなく所有紋(うろこもよう)


(…目立つな。)


けど、それでも我が愛らしさに一片の陰りなし。つまり、


「これだけの美少女ならノアもイチコロ!私にメロメロになっちゃうんじゃないかなっ!?」


「…発言に世代を感じる。お前絶対『少女』じゃないからな?外見も、…詐欺、妄想、ブラウのミスって可能性も…」


広がりそうだった妄想を即時回収していくスライムが何か言ってる。


「ノンノン!ブラウが言ってた!前、なんか言ってた!『魂に刻まれた姿かたち』だとか、そんな感じのことを言ってた!だから、これは私!本物!」


「…って主張してるが、ブラウ、その辺、どうなんだ?」


「うーむ。前世から引っ張り上げた以上、その姿がシノであることに間違いはない。が、死ぬ直前の(なり)であったかは、…判断が難しいところではあるな。」


「つまり、一応はシノの前世の姿、けど、子どもの頃の姿をしてるってことか?」


「可能性は高い。…何故、その姿が魂に残されておったかは分からぬが。」


「オーケー!つまり、享年はわかんないけど、美少女だったという過去の栄光は間違いなく私のもの。そして、恐らく絶世の美女であっただろう私に、ひれ伏すがいい!」


「…なんでだよ。」


まぁ、勢いです。


美少女までは自認できても、美女はね?ちょっとね?なんか、急にハードル高いよね。でも、まぁ、美少女スライムであることが判明した私。これで人生勝ち組!って喜んでたんだけど、


うん、本当、束の間の勝利だったわ―。






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