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ノアのお仕事のお手伝いが決まり、同じ地域と言え、馬車で三日はかかるという距離にあるランウッドに向かうため、私たちは諸々の支度に追われていた。宿を引き払い、ギルドでサラさんにお暇を告げ、査定所でザックさん達と涙の別れをして、それからいよいよ出発、飛び乗ったのは馬車ではなく─
「高いー!怖いー!超楽しいー!」
「…シノさん、こういうのは平気なんだね。」
「え!?超怖いよ!核、バックバクよ!」
「…」
大空を飛ぶ巨大なブルードラゴン、その背中に乗ったノアに抱っこされて、遥か下、足元に広がる大地を見下ろし、
「いやー!人が!人が、ゴミ、には見えない!むしろ、点!」
「シノ、あんまりはしゃぐと落ちちゃうよ?」
「ウーラー!」
あ、これは海か?と思いつつ、背後を振り返る。
「ヒナちゃんは?大丈夫?怖くない?」
「うん。」
ノアの背後、緊張に固まり、決して下を向かないゴスロリマリちゃんの後ろ、ユージーに抱っこされて大人しくしているヒナちゃんは、マリちゃんほど怖がってはいないようで安心する。
「ノアノア、これ、あとどれくらい?どれくらいで着くの?」
「うーん、あと一時間くらいはかかるかなぁ?」
「あはは!日帰り!馬車で三日の距離、日帰り出来ちゃうじゃん!おやっさんと今生の別れした意味なし!」
「…そのおやっさんって、ギルドのあの、厳つい感じの人だよね?査定所の。」
「うん!そうだよ!」
初めての空の旅、壁も座席も命綱もない状況にテンションが天元突破。よくわからないくらい笑えてはしゃいでいたら、ノアにギュッてされた。
「…仲良くなったみたいだね?」
「うん!尊敬する上司!スッゴくよくしてもらった!お仕事、メッチャ楽しかった!」
「…なんで、シノが。」
「え?」
「なんで、シノが査定所で働く必要があったのさ。そんなことしなくても…」
明らかに不機嫌マスターは、どうやら、私が他の人間に手懐けられたのがお気に召さなかったらしい。
(おやっさんのこと、メッチャ睨んでたもんな。)
餌付けされた自覚がある分、そこはちょっと罪悪感もあるけど、
「仕方無かったんだよ!依頼が全然無かったの!無かったというか、邪魔されて働けなかったの!」
無職!無職スライムだったんだよ!と主張してみれば、
「なんで、僕の名前ださなかったの?」
「あはははは!ほんと、それな!」
「…」
笑い飛ばしたら、ノアの腕の力が強まった。
「…もっと待遇よくしてもらえたでしょう?依頼、優先して回してもらうとか。」
「気付かなかったんだよー!気付いたの、ホント、つい最近でさー!そんな裏技あったのーって!」
「…宿だって、わざわざ教えてあげたんだから、僕の名前出せば良かったのに。良い部屋、ただで泊まらせてもらえたよ?」
「えー!?そっちは、考えもつかなかった!」
ちょ、マジか。マイマスターったら、とんだVIP様じゃないかと、改めて恐れおののいてたら、ノアの腕の力がどんどん強まって─
「…ノア?…どうしたの?」
「ううん、別に。」
なんか、すがり付かれるみたいに抱きつかれてしまった。




