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「あ、あの、ノア様は、なぜ、この街にお戻りになられたんですか?」
「え?なぜって?」
「その、この街には、ノア様が大切に想われる方がいらっしゃるのでは?」
(なるほど…)
あくまで「そういう噂なんです」という言い方で探りを入れるこの感じ。流石のレティ嬢も、「私のために戻ってきてくれたんですよね?」とはいかないんだね。でももう、流石にノアの雰囲気的に「想い人うんぬん」は無いんじゃないかなー?
「…ノア様は、その方のために戻って来られたのでは、ないのですか?」
うん。引かない。引かないね、レティ嬢。ノアを見上げる目がウルウルしてるのは、思いっきり媚びてるけど、引かない、省みない行動力、レティ嬢の中に漢を見た。
「うーん?誰かのためっていうのは?どういう意味?」
「…その方のために、アラクネの討伐依頼を望まれたり、」
「ああ!そういうことね!」
漸く理解したって感じで笑顔輝くマイマスターに、レティ嬢もパァッて笑顔を浮かべた。そのレティ嬢に向かって誇らしげに胸を張ったノアが、
「うん、君の言う通り。僕は、この子のために戻ってきたんだ。」
そう言って、私を持ち上げようとした。持ち上げようと、してくれたんだけど、最近、私、食べてばっかだったから、多分、今、大型犬くらいあるから―
結果、一応、上半身?は抱っこされてるけど、お腹から下、下半身がウニョーンて延びて、なんかブラブラしてる。辛うじて、地面から浮いてはいるけど。
「…え?このスライムが…、なに?え?」
レティ嬢、大混乱。周囲も微妙な反応になる。
(惜しい。非常に惜しい!)
これはまさに、「え?イケメンに選ばれたのは、可愛いあの娘じゃなくて、まさかの私!?」という、非常に美味しいシチュなのに、シチュのはずなのに。「まさかの私(スライム)!?」じゃ、全然ダメ、全然違う。全く萌えない。
だって、ほら、なんか、悟ったらしいサラァさんも、「きー!私を出し抜いて!」とかの顔じゃないもん、あれは。「あ、そういう…(察し)」って顔。
「…じゃあ、もういいかな?話はもう終わり?僕、シノ達に話があって帰って来たんだよね。どこかでお茶でもしながら、」
「どうしてですか!?」
「え?」
たまらず、と言った感じで声を張り上げたレティ嬢を、ノアが心底不思議そうに眺める。
「だって!いつも!サラさんじゃなくて、いつも私の受付に来てくれたじゃないですか!」
「そう、だった?まぁ、そうかもしれないけど、僕、ギルドで受注とかしないからよくわからないんだよね。いつも、完了報告は空いてる受付でやっちゃうから、たまたまかな?」
「そんな…!…でも、だけど、好きなお菓子や食事なんか、私の好みを聞いて下さったり…」
(え…?)
また疑惑発言をするレティ嬢の言葉に、ノアはシレッと頷いた。
「あ、うん、そう言えばそうだったね。そっか、そういう意味で『お世話になった』んだったね。」
(え?え?ちょっと?ちょっと?)
あっさり肯定したノアの腕から、抗議の意味を込めて逃げ出そうとしたのだけれど、
「えっと、教えてくれてありがとう?助かったよ?」
「え?」
やっぱり、どうしても食い違っている様子の二人。ノアの言い方だと、一緒に食事をしたというわけではなさそうだと思い、はたと気づいた。
(…もしや、 アレか、『差し入れ』か。)
餌付けのために我々のもとにもたらされたあれら。考えてみれば、手近で入手しようとすれば、出所は自然と最寄りの町であるここだということになる。
(まさか、レティ嬢リコメンドだったのか…)
それは、若干、ノアも思わせぶりだったのか?とも思ったけれど、二人で食事したわけでもないのなら、レティ嬢の勇み足かなとも思うし―
「では、では!私に、脅威となるモンスターが居ないかと、居ればノア様が倒して下さるとおっしゃった、あれは何だったのですか!?」
「うん?だから、狩ったでしょ?」
「…」
(違う違う!)
そうじゃ、そうじゃないんだと、気づけばレティ嬢サイドで突っ込んでしまう。
『ノア!理由だよ!理由!何で、「レティさんが脅威だと思うモンスター」を狩ったのか、その理由よ!』
「ああ。だって、シノが危ないでしょ?」
「え?」
「スライムなんだから、直ぐに死んじゃうじゃない?だから、この周辺の高難易度モンスターは全部狩っとこうと思ったんだ。本当は、全部、狩りきりたかったんだけどね、流石に時間が足りなくて。」
「…」
「優先順位って意味で、危険度の高いモンスター情報を教えてもらった、かな?」
「…」
(…ヤバい。)
マイマスターがなんか、親バカ?主人バカ?なこと言ってるのに、それが全部、理由が私なんだって思うと、正直、うん、すっごいキュンと来た。から、大人しく、ノアの両腕にぶら下げられておく。




