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私の真の姿がバレ、ユージ―が「実力隠した俺TUEEE!枠」だと発覚してから、周囲の反応が全然変わった。こっちは何一つ態度を変えていない─恣意行為はユージ―に禁じられた─というのに、まさに腫物、我々がギルドに現れた途端、シーンからの「あ、そう言えば俺、用事あったんだわ」逃走。不快な視線が無くなり、依頼掲示板までの導線もスムーズ、これ以上ないほど快適な冒険者生活をおくれている。
え?最初から身バレしとけば良かったんじゃね?と思ったりもしたけど、まさが自分がいつの間にか「ちりめん問屋のご隠居の印籠枠」に当てはまってたとは思わないし。ぶっちゃけ、ノアが本人不在でも名前だけでどうにかなっちゃうレベルの方だとは思ってなかったし。
後は、ノアの名前を使うことの弊害も、勿論ある。わかりやすく、権力者の名前に引き寄せられる人も、世の中いるわけで─
「あ!ユージさん、こんにちは!ノアさんのスライムちゃんも、フフッ、元気そうで良かった。」
「…」
ワンフレーズの会話の中に、可愛らしい笑い声を挟んでくるという恐ろしいテクニックを見せつけるギルドの受付嬢─もちろん、サラさんじゃない方─のレティ嬢の手のひら返しが怖い。つい最近まで路傍の石だったユージ―に向けての満面の笑み。おかげで人型マリちゃんがわかりやすく般若と化している。JKの嫉妬が可愛い。
「…サンドバードの討伐依頼を、」
「あ!サンドバードの依頼ですね!大丈夫ですか?結構、危ない場所ですし…」
「っ!ちょっと、あんた!」
ユーグがサラさんに出そうとした依頼受注を、横からかっさらっていくレティ嬢、サラさんが怒るのもまぁ当然という場面で、レティ嬢はユージ―しか見ていない。え、マジで怖い。
「あの、良かったら、スライムちゃん達、私が預かりましょうか?危険な場所にこの子達を連れていくのは…」
「はぁっ!?あんた、何言ってるかわかってんの?」
レティ嬢の言葉に、ユージ―ではなくサラさんが怒った。これも当然だろう。その「危険な場所」に行くモンスターテイマーにモンスターを置いていけ、つまり丸腰で行ってこいと言っているのだ、このお花畑さんは。サラさんがすごい常識人に思えてきた。
「…だって、本当に危ないじゃないですか。もし、この子に何かあったら、ノアさんが…」
ノアノア五月蠅いレティ嬢だが、彼女はノアの権力というよりは恋心的なものから私に取り入ろうとしているらしい。それはわかるが、そのためにユージ―を危険に晒して構わないという発想が、怖い。もう、未知の生き物に見えてきた
「…スライムちゃん、私と一緒にお留守番しよ?お菓子も、好きなもの食べさせてあげるよ?」
「…」
目線の高さを合わせて伸ばしてきたレティ嬢の手を華麗に避ける。
「もぉ、ちょっとくらい触らせてくれてもいいのにー。」
「…」
悲しそうに眉根を寄せるレティ嬢の子ども扱いにゾワゾワ来る。ノアに初めて触られた時よりも酷いかもしれない。
結局、その日はサラさんの剛腕により、ユージ―は無事に依頼を受注することができた。完了依頼の際にまた一悶着あったものの、今度はサラさんとマリちゃんの共闘により私とユージ―の絆は何とか守られていた。ユージ―は対女性だとほんと、ポンコツ振りが酷い。
そうやって、何かと理由をつけては私を預かろうとしたり、餌付けしようとするレティ嬢の猛攻をくぐり抜けること数日。誰にでも尻尾を振る節操無しとは違う(キリッ)私へのご褒美だろうか、待ち望んだその人が、とうとう帰ってきた─
「シノっ!」




