4-11
そっからのジュードの判断は早かった。
戦略的撤退、不干渉、専守防衛、まぁ、なんかそんな感じであっという間に我々から離れていって、最初っから何にもなかったみたいに、普通の顔して受付で依頼を受け始めた。ポッカ―ンなスライム軍団なんて眼中に無いって態度。今更「謝れ!」って感じでもなくなっちゃったから、ある意味、見事。えー?って思いながらその背中を眺めてたら、後ろから聞こえてきたおやっさんの声。
「…悪かったな。こいつの正体バラしちまって。」
「…いや、それは別に…」
謝罪するおやっさんが、「ちょっと奥で話そう」って言うから、付き従ってギルドの奥へと向かった。突き刺さる周囲の視線の痛いこと痛いこと。
「…改めて、勝手をしてすまなかった。」
ギルマスの部屋にたどり着いたとたん、おやっさんが再び謝罪の言葉を口にした。今度は本当に頭まで下げるもんだから、スライム軍団としてはワタワタするしかない。そんな謝られるようなことされた覚えがそもそもないし―
「…うちでこいつが働き始めて割とすぐ、所有紋には気づいてたんだ…」
「…」
「だがまぁ、お前が紋について触れないってことは、まぁ、そういうことだろうなって思ってこっちも黙ってたんだが…」
「…」
(そういうことって、どういうことだってばよ?)
どうやらおやっさんが最大限配慮してくれてたっぽい忖度の理由も中身もわからずに、スライム軍団は困惑を極める。
「ノア・ガルシアのスライムを預かってるってことは、ユージ、お前もガルシアの関係者なんだろ?」
「いや、俺はガルシア家とは…」
「ああ、すまん。詮索するつもりは無いんだ。…悪かったな。」
「いや…」
「…ただ、ガルシアの関係者が身分を隠して新米冒険者としてうちに来た。ジュードとノア・ガルシアの揉め事の後始末のためか、ギルド自体に対する何らかの視察が目的か。」
「…」
なんということでしょう―
おやっさんのユージーへの期待値がいつの間にか爆上がり。もう、ユージーも今さら、「あ、自分もスライムなんすよ」とは言い出せない雰囲気。
「その辺のお前の事情まで聞き出そうとは思っていない。が、ジュード達に関しては、一度、ノア・ガルシアと揉めちまってるからな、次が無い。ギルドとしても放置は出来ん、勝手だが、話させてもらった。」
「ああ、いや、それは別に。…そういや、確かもう一人、あのジュードって奴と一緒に居た奴が…」
「ああ、ゾフだな。…あいつの方は、まぁ、何て言うかな、その、ノア・ガルシアの制裁で再起不能になっちまって…」
「…」
「ジュードの奴も、…俺はもう駄目なんじゃないかと思ってたんだが。…こうやって戻ってきた以上は、あいつもここの一員、これ以上の追加制裁は勘弁してやって欲しい。」
そう言って再び頭を下げるおやっさんが、「あいつはあれでもうちの戦力なんだ」って、苦しそうに言うから、うん、色んなもの飲み込んだよ。ヤツが殺ろうとしたのはあくまでスライム、人じゃない。そして、ノアによるかなりヘビィな制裁も済んでる。その辺の情状酌量を頭で理解した。理解したから、
『やっぱり、次、ヤる時は自力救済、…闇討ちだよね?』
『…お前は、何を言ってんだ。』
あの光景を忘れることが出来ない内は、半分本気のこれも抱えているしかないんだと思う。だから、妄想するくらいは許して欲しい。
結局、おやっさんとも話し合って、ジュードの方から何かをして来ない限りはこちらからも不干渉ということに落ち着いた。ユージ―は「それでも、自衛だけはしとこう」というスタンスだから、今までとそう変わらない生活になるんだろうけど。
そんな感じに一応の一件落着の中、尾を引く感じで地味にちょっとショックだったのが―
「…シノさんの紋って、お花じゃなくて鱗だったんだね。」
「…」
ほんと、ソレね―?