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スライムクラスタ転生~異世界も みんなで渡れば 怖くない と思ったけど スライムだからナチュラルに死にそう~  作者: リコピン
第二章 人化成功(一部スライムを除く)、冒険者デビュー
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4-10

ジュード―


誰かが男の名らしきものをつぶやくのが聞こえた。続けて、「生きていたのか」「帰って来たのか」という、怯えや驚きの混じったざわめきが広がる。ギルド内を一瞥した男の口角が上がった。ニヤリと片頬で笑って、


「残念だったなぁ。この通り、俺はまだ生きてる。腕一本は失っちまったがな?」


言って、男が振り回して見せた右腕は肩から下がなく、鉄製の義手のようなものがついている。指先まで再現された義手を見せつけるかのように、拳を握ったり、開いたりして見せた男の視線が再びこちらに向けられた。その視線の先が、ヒナちゃんに据えられて、


「…ムカつく色したスライム連れてんじゃねぇか。ヤなもん思い出しちまったぜ。」


そう口にした男が、ギルドの中へと歩を進めた。近づいてくる男の姿。ひりつく空気、嫌な汗が流れる。呼吸が荒くなる。隣のユージーやマリちゃんも緊張してるのが伝わってくる。目の前まで迫った男の見下ろす視線、込み上げてくる恐怖の感情。一気に引き戻される―


「…俺の腕がこんなことになっちまったのも、元はと言やぁ、スライムなんてクソ雑魚モンスターのせいなんだよな…」


「っ!?」


過去にするには未だ早すぎる。


身を焼かれ、痛みと絶望に鮮明な死を描いてしまったあの瞬間。かつて、自分たちを殺しかけた男の放つ空気に、情けないくらいあっさりと身動き一つとれなくなってしまった。


(動け!動かないと!)


でないと、また―


わかっているのに動けない。隣に立つユージーを見上げることも、声を発することも出来なくて、


(ヒナちゃん!ヒナちゃんに大丈夫だよって言わなくちゃ!)


思うのに動けない。男が放つ怒気、グラグラと煮えたぎる熱さをもつナニかをぶつけてくる男の凄みが増した。


(来る!?)


何かをしかけようとしてくる男に、だけど、ヒナちゃんをかばうための一歩が踏み出せない。


(嫌だ!)


いつかの二の舞、あんな思いは二度としたくない。身体の自由を奪うモノに必死であらがう。それが向こうにも伝わったのか、男が笑った。すごく、嫌な笑い。男の金属の右手が向けられて―


「よせ!ジュード!」


「!?」


突如、背後から響いた声―


「…チッ、ザックか。」


(っ!?おやっさーん!?)


間一髪に間に合ってくれた救世主の登場に、危うく歓声を上げそうになる。渋々といった体で義手を下げたジュードに、身体も漸く自由を取り戻した。こちらが振り返るよりも早く、ジュードとの間に盾になって立ちはだかってくれるおやっさん。頼りがいのあるぶっとい膝裏が目の前に現れて、泣くかと思った。泣けなかったから、代わりにしがみついておいた。


「ジュード!てめぇは、自分が何やらかそうとしたのかわかってんのかっ!?」


「…」


「冒険者同士の私闘はご法度、場合によっちゃぁ、ギルドによる制裁、冒険者資格のはく奪だってあり得るんだぞ!?」


「…」


「こんな場所…、ギルド内で揉め事を起こすなんざぁ、」


「ごちゃごちゃとうるせぇなぁ。ザック、てめぇにゃ関係ねぇ話だろうが、引っ込んでろよ。」


「っ!」


鉄製の重そうな腕でおやっさんを押しのけようとするジュード、それに踏ん張って耐えたおやっさんが、ジュードの腕をつかんだ。


「…よせ、やめておけ。折角拾った命だろうが。…今度こそ、本当に失うことになるぞ?」


「あ?なんだ?どういう意味だ、そりゃ?」


おやっさんの押し殺した声に、ジュードが不機嫌に返す。


「命を失う?俺がこんな雑魚テイマーに殺られるっつってんのか?」


「…」


おやっさんの真剣な眼差しをジュードは鼻で笑った。不遜な態度、だけど正直なとこ、―ジュードの言う通り―我々じゃあ、目の前の男を殺っちゃうのは無理なんじゃないかなぁと思っている。一瞬で自覚させられた(レベル)の違い、勝てる気がしなかった。だから、全力でおやっさんにすがりつく―


「…()(うろこ)…」


「あ?」


(「ムツ」?「ミツ」ではなく?)


突如、おやっさんが口にした単語。どっかのCMで連呼されてるのと似て非なるその言葉の意味がわからずにユージーを見上げてみたけど、小さく首を振られた。


「なんだ?六つ鱗だ?…んだ、そりゃ。」


言われたジュード本人もその意味がわからないらしく、薄笑いでおやっさんに問いかける。その視線を受け止めたおやっさんが、


「…」


「?」


一瞬、こちらを見下ろしてきたような気がしたんだけれど―?


「…『鱗』は、国内最高位のテイマー一族、ガルシア家の所有を示す。それが六リン。最大数の鱗の使用が許されるのは、ガルシア家当主のみ。」


「…ガルシア、だと…?」


おやっさんの言葉に、ジュードの表情がわかりやすく歪んだ。そこに見てとれるのは怒りと憎しみ。それから、多分、本人的にも隠しようがなかったんだろう恐怖。


「…お前が手を出そうとしたスライムは、六つ鱗の所有紋を持ってる。」


「…」


おやっさんの視線が今度ははっきりとこちらに向けられた。


「こいつは、ガルシア家当主、ノア・ガルシアのテイムモンスターだ。」


「っ!?」








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