07:リアルノイズ
ザッ、と足音が近づいて。そして気付いた時には背中に腕が回っていた。抱きしめられる、よりも柔らかな感覚。
守られているような、理解されているような、そんな錯覚を覚える。
普通に考えればおかしい。私は彼とろくな会話をしていないのに。なのにどうして彼は私がわかるのだろう。望んでいたことが。それで確実に慰められることが。
欲望のない抱擁はどこまでも温かで、私にとっては贅沢なものだった。
その腕に緊張が走ったのはどのくらい経ってのことだろう。微かに込められた力を、私は最初誤解していた。
彼はゆっくりと腕を解き、それから多分私を見たのだと思う。――私はずっと顔を上げなかったから。そして喉から引き剥がすような声で言った。
「明日、またここに居る」
その声にさえ、頷くことも首を振ることも、また顔を上げることも出来なかった。
何故だろう? 確実に温められたはずの心はそれをさせなかった。だから彼がどんな顔をしたのかわからない。もしかしたら眉を顰めたのかもしれない。
でも私は頑なにそのままでいた。何かを口に出してしまうと、身体を動かしてしまうと壊れてしまいそうな気がしたからだ。
足音が遠ざかる音と、気配が変わる感覚がして私が顔を上げたときには、彼の姿がちょうど植え込みに消えるところだった。
そうか、現実に戻っていったんだ。
その向こうで微かに聞こえる声を、私は聞かないように背を向けて歩き出した。どことなくまだ、彼の抱擁が残っているような感覚で。