28:マーブル
普通、なら。結衣なら。なづきなら。……私なら?
カップを手にして考え込んでしまった私に、なづきが溜息をついた。
「会ってみたら?」
妙に、声が優しい。
冷めてる風を装ってるけど、なづきはこんなとき放っとけないタイプだ。仕事でもそれが出て、時々自分の仕事以外のフォローでいっぱいいっぱいになってるときがある。損をすることも多いって嘆くけど、私はそんななづきが好きだ。
「結衣が言ったから、とかじゃなくてさ。あんたが自分の気持ちにケリつけんのに、必要なんじゃないの?」
「……そう、なのかな」
「そうじゃなかったら、なんでそんなに気にするのさ?」
やっぱり、コーヒー、苦い。
なづきの言うことはいちいち正論だ。というより、彼女がなにか意見めいたことを言うときはよほどのときで、そしていつもそれは的を射ている。普段飄々としているのはその鋭い爪を隠すためなんじゃないかと思えるほどに。
「図星か」
ふうっと溜息と一緒に小さな声が漏れる。それからもう一度牛乳のパックを取り出して、無言で私の手のマグカップの中に注いだ。真っ黒な液体がマーブルになって、それから淡い綺麗なカフェオレカラーになる。
「答えは出てるじゃないか」
カップの中を覗き込んでいる私になづきが言い、視線を上げて彼女を見るとニヤリ、笑った。そしてぱたん、と冷蔵庫のドアが閉じる音と一緒に、私の頭になづきの手がぽんぽんと二回、置かれた。
「さ、残りの伝票さっさと片付けて帰ろ」
給湯室を出て行くなづきの背中に、届かない「うん」という返事を返しておいてもう一度カップの中を見つめる。
黒は鋭く私を見返したけれど、牛乳の混ざった色は優しく笑っているように見える。喉を通って胃に向かう液体は温かく、ほわりと包んでくれるような気がした。
会ってみる? 彼に。
何もかもに答えを見出すのなら、彼にもう一度会ってみなければ。ひとりで考えていても、見えるものも見えなくなってしまう。
……明日、公園に行ってみよう。桃色はもうはらはらと残り少ない涙を零すだけだけれど、彼に会えるとしたらあそこしか、ない。