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桜色の闇  作者: 香住
24/35

24:テニスコート

「ええと……肉体の方に興味があるってこと?」

「ん、まあ、そーいうコトかな」

 結衣が茶色の綺麗な髪をかきあげながら言う。なづきは既に聞かないフリをしていた。

「好きだ、って感情を欲情によって錯覚しちゃうのよ。仕方ないことなんだけどね」

 にっこりと唇のピンクが弧を描いて頷いた。


 彼の瞳には確かに欲情の色はあった。腕に込められた力も。ぎゅっと抱きしめられた温もりはそれがベースだったのだろうか? 欲情するのは仕方のないこと、なのだろうか? 触れればやはりそうなってしまう?


「……ったくあんたたち、ランチといっしょにする話題じゃないやね」

 溜息をついてジロリとなづきが軽く睨む。

「あらぁだって、大事なことよ? そんな男に引っかかったら大変だもの」

「結衣じゃあるまいし、乃里子に限ってその心配はないとあたしゃ思うけどね」



「……かも」

「え?」

 結衣となづきが同時にそう言って私を振り返る。真っ直ぐに目の前のテニスコートを見つめたまま、もう一度、今度は少しはっきりとした声音で言った。

「引っかかった、かも」


 ふたりが眼を合わせてきょとんとしたのが手にとるようにわかる。そしてやっぱりと言うべきかさすがと言うべきか、先に我に返ったのは結衣だった。


「えー……と、乃里子、引っかかったって言うのは、男に?」

「ちょっ、ゆ……!」

「なづきは黙ってて! 引っかかっちゃったの? そういう男に?」

 凄い剣幕でなづきを黙らせると、優しい声で結衣が重ねて聞いてくる。


 ……どうなんだろう。彼は『そういう男』なんだろうか。確かに私は彼のことを何も知らない。名前も歳も、何をしている人でどこに住んでいるのかさえ。私の思いを理解してくれていたかもしれないということ以外は、何ひとつわからない。


「わかんない。そんな人じゃないと思う」


 結衣の質問に曖昧に答えを拒否しながら、私はテニスコートから眼を逸らした。彼にダブって見える彼らが眩しかったのと――結衣となづきをまっすぐ見られなかった。何故か。


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