表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜色の闇  作者: 香住
2/35

02:アフターファイブ

 普段、ほとんど残業するということはない。ナインツーファイブの世界。それでいいと思っている。私も雇い主も、だ。

 だからこんなことは入社以来のハプニングだ。


 何があったのかなんて、下っ端OLには知らされないことが日常茶飯事。だからただ、指示されたことを従順な犬のようにこなしていく、だけ。

 私は正直、半分面白がっていた。普段五時のチャイムと共に逃げ出すこの四角いオフィスからは見えなかった、オレンジの空や掃除のオバサンや蒼く染まる空が物珍しかったのも、あるけれど。

 だから会社を出てからも私の足取りは軽かった。


 時計は二十時十五分。まだ風はそんなに冷たくはない。

 風に攫われて桃色の欠片がひらりと、私の髪に触れてきた。

 ――まだやっぱり、力いっぱい咲いているのかな。それとももしかして……?


 妙な期待感を持って、私は遠回りのルートを選ぶ。昼休みも通った道は、当たり前だけど昼間の顔とは違う。すれ違うカップルは腕を組んで睦まじそうに、疲れて歩くサラリーマンは家路を急ぐのだろうか。


 大きく逸れた道は、公園へと続く。


 昼間、太陽の下で抗うように咲き誇っていた桜は、漆黒の空を背にしてみると妙に頼りなげに見えた。それでもやっぱり、ある程度の息苦しさは否めない。

 どっしりと自信を持って咲き誇っていたのとはまた違う、儚げながらもしなやかな強さを感じられる。


 ああ、やっぱり、ダメなのかな。

 こんな風にがんばって生きなきゃいけないのかな。


 桜の花に競争心を抱くなんて、きっと結衣やなづきが聞いたら笑うだろう。いや、結衣はかえって面白がるかもしれない。

 『またいつもの乃里子節?』って、くすくすって。栗色の髪が風になびいて。


 そうか、私、もしかしたら羨ましいのかな。

 そこまではたと考えてから、思った。

 何が羨ましいんだろう。結衣が? 長い髪が?茶色の髪が? それとも一生懸命生きる桜が?


 桃色の天井はあやしげに漆黒の着物をまとって私を見下ろしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ