表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜色の闇  作者: 香住
17/35

17:ファーストインパクト

「……理由、要るかな」


 たっぷり見つめ合ったあと、零れたのはそんな言葉だった。彼はその声が届かなかったかのように微動だにしない。


「ううん。言わなきゃ、いけないかな。言葉にしたら――」

 頭を微かに左右に振って、自分の言葉を一度打ち消して私は一度そこで眼を伏せた。言おうとした言葉を舌に乗せるのに刹那、躊躇う。それでも、込み上げてくる言葉の方が強かった。


「何か――崩れてしまいそうな気がする」

 そう言って視線を上げると、変わらない彼の表情にぶつかった。彼の唇はそこからゆっくりと動く。

「崩したく……ないのか?」

 意外な問いかけに一瞬、言葉に……いや、思考に詰まる。私は崩したくないのだろうか? ――いや、何を崩したくないのだろう?

 彼にはそれが、わかっているとでも言うのだろうか?


 ふっと肩の力を抜いて、考える時間を作り出すために呟く。

「崩したく……ないのかも」

「怖いのか?」

 すかさず、といったタイミングで彼の切り返しが心に刺さる。

 怖いのか――? 怖いのだろうか。何が? 『何か』が崩れることが。今の絶妙なバランスの上に成り立っている関係が崩れることが。動いてしまうことで始まってしまう何かが?


「あなたは……怖くない?」

 見返した瞳が、少し弱々しい光を発していることに私は勿論気づかなかった。だから彼がその眉を痛ましげに寄せた本当の理由にも気づかず、私の問に答えるのを逡巡したのかとだけ、単純に思っていた。


「俺も、怖いよ。怖い。だけど」

 だから彼がそう口にしたときもその続きは……言い訳に近いものなのかと思っていた、から。だから私は、準備が出来ていなかった。何にも。



「だけど俺はあんたに、泣いてほしくない、から」



 何かが崩れていくような気が、した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ