16:ジェラシー
桃色の粒が私を打っていく。頬や髪や手に、その存在を儚く打ちつけていく。風が私の髪を撫でながら過ぎ、そしてそこから一拍置いて今度はピンクの天井が大きくそれを揺らした。
――泣いている。自分も、この桃色の天井も。
そう思った瞬間、胸につかえていたような何かがすっと落ちたような気がした。圧し潰されそうな後ろめたさも、寂寥感もなかった。ただ、同じように涙を流しているんだと思うだけで。
風が止むと天井はその揺らぎを止めたけれど、時折溢れるそれを我慢できないかのようにぽろりと涙を零した。
「……ごめん、ね」
誰に、何を謝っているのかわからないけれど、私の唇はそう動いていた。何故だか、零れていくピンク色の涙を抱きしめたかった。
風に揺れて零す涙の粒をてのひらに数枚受けると、私はそっとそれを包む。花びらは欠けて、茶色に変色しているものもあったけれどその小さな破綻が逆にいとおしさを増した。
「なんで、泣いてる?」
唐突なその問いに、私はそのままゆっくりと声の主を見る。不思議と驚いたということはなかった。期待はしていたけれど、まさか。
てのひらを包んだかたちのままで私はその手を胸に当て、微かに微笑んだ――つもりだった。自分が泣いていることにすら、気付かなかったから。
「涙、みたいだよね」
私の言葉に彼は、眩しそうに目を細めて天井を見上げる。
「そうだな。泣いてるみたいだ」
その視線がいとおしそうで、一瞬私は不可解な感情を抱いた。
まさか……嫉妬、してる? 花を相手に?
迷うように伏せた視線を彼がどう思ったのかはわからない。ただ、恐らくその視線は私にあったのだと思う。それはただ私がそう感じるだけで、事実ではないのかもしれなかったけれど。
「あんたも、泣いてる。桜と同じように……泣いてる」
声は低かったけれど真っ直ぐに心に差し込んでくる。
泣いている。私。桜と同じように。――同じように。そこで初めて、自分が涙を零していることに気がついて、そっと目尻を拭った。
「なんで? なんで、泣く?」
潤んだ瞳が真っ直ぐに彼の視線とぶつかった。どこか痛ましげな表情を浮かべて、彼は私を見ている。てのひらがゆっくりと力を失って、私の胸からピンク色の涙が零れて落ちていった。