13:ギルティ
四角いオフィスの窓から見下ろすピンクの塊はまだ、饒舌だ。今まで感じていた息苦しさとは違う、なんだか重苦しい気持ちが占めている。元々心が快晴だったことのほうが少ない私でもこのどんより感は、一足先に心だけ梅雨に入ったかのようだった。
終業後のエントランスを抜けると、迷う。通常、帰宅するためには最寄駅へ向かう為に左へ曲がる。右に曲がるとあの公園を通って遠回りして駅に着く。
一瞬の迷いで足を止めた私に、後ろから女の子の二人連れが甲高い笑い声を上げてスイっと追い抜いていった。その騒がしさに眉を顰め、反射的に逆方向の左に曲がる。
考えないようにしよう。そうだ、もうすぐ花も散る。そうすれば青々とした緑の柔らかさに心は和む筈だ。
そんな言い訳を私は三日、使いつづけた。
「ねぇ今日のお昼、外行かない? お弁当買って」
「お、いいねぇ。たまにゃゆっくり自然の中で、ってね」
結衣の提案に、なづきが一も二もなく賛成の声を上げた。彼女はここ数日、直属のリーダーが昼休み中なのにコピーを言いつける、とお冠だったのだ。
「乃里子も大丈夫でしょ?」
ぱっと髪を翻して結衣が微笑む。香りが広がる。
「ねぇ、シャンプー何使ってる?」
「え? ああ、えーっとね、こないだ変えたの。新製品、買っちゃった〜」
突然の流れに乗らない私の質問に面食らいながらも結衣は数度瞬きをしたかと思うとすぐに反応してくれる。なづきもだいぶ慣れたのか、「また? 今度は何さ?」等と溜息をつく。
「私、止めとく」
小さな声で言ったのは、もし聞こえないようだったり聞き返されたりしたら再度繰り返さないことをわかってのことだったと思う。その点、私はずるかった。
「あ、そお〜? んじゃなづき、十二時鳴ったら踊り場でね」
私のペースがわかっている結衣は、カルくそう答えた。いつもならそんな風に理解のある結衣のことを助かったと思うのだけど、今回は妙に理不尽な気持ちだった。
そしてやっと気付くのだ。自分から行かないことで、私は何かを偶然の所為にしたいのかもしれない、と。その理由を問い質される前に弁明しなければいけないのはわかっていたのに。
自ら赴くのではなくてあくまでも偶然に。そうでなければ、なんと説明したらいいだろう。