01:ランチタイム
満開の桜は、あんまり好きじゃない。見上げると桃色に圧迫されそうになる。
息が詰まりそうなほど密着して咲き誇る桜。
そんなにいっぱいいっぱいに咲いてどうするというのだろう?
ほんの僅かな期間、力いっぱいに花びらを開こうとするその意志が、私にとっては息苦しいのかもしれない。
「乃里子、またぼんやりしてる」
「またァ?」
ひらひら、と目の前に白い掌が揺れた。
「……何?」
「今日はなに考えてたの?」
首を傾げると、彼女の栗色の髪がさらっと滑る。妙な話だけど結衣のその髪を見るといつも触りたくなって困る。……思う三回に一度は、実際行動に移してはいるんだけど。
それでも『変わったコ』と気に入ってくれているのが救いだ。時々こうして、言葉に結びつけるための切欠もくれる。
「一生懸命さって、息苦しいのかなって」
「……また独特だねェ、乃里子節」
結衣の隣、短く切った髪をかきあげてなづきが呆れたように息をつく。こちらは敢然たる現実主義だ。率直な言い口が悪気も後腐れも感じさせない。
「あら、いいじゃない、あたし好きよ?」
「私にゃ理解不能。さて、昼休みはあと十分、戻るかい、お二方」
ベンチから立ち上がって制服のスカートを払い、なづきが私たちを見下ろした。いや、彼女にはいつも見下ろされているのだけれど。
でもベンチで見上げると、なづきの向こう側の太陽が彼女を照らして、明るい茶色の髪が金色に透けて見える。結衣も同じだったらしく、嬉しそうに言った。
「なづき、またカラー入れた? すっごく金色に見えるね」
「ん、ああ、ちょっと明るすぎるかと思ったんだけどさ」
そんな会話をしながらつまらない四角いオフィスへ戻る二人の後姿を見つめ、私は最後の一瞥のつもりで桃色の天井を見上げる。
息苦しさは変わらない。一生懸命咲こうとしているのはよくわかったわ。でもね――
桜の花でさえあんなに命を生きようとしているのに、という後ろめたさがあるのだろうか?
「乃ー里ー子ー! 置いていくよー?」
前方を歩く結衣が振り返り、叫ぶ。隣のなづきは面倒臭そうに髪に手をやって――それが彼女の癖なのだけど――ちらりと私を見ていた。
足を早めて二人に追いつくと、結衣がにっこり微笑む。
「明日もいい天気だったら、またここでランチにしましょ? ね?」
時計は十二時五十五分。