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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ざまぁして復讐を果たすまでのお話~異世界に召喚された俺だが、魔物が巣食う洞窟で勇者パーティーを追放されました~

作者: ライスハーバー

流行りに乗って書いた追放、ざまぁです。

他作品のIFルートですが、内容は全然関係ありません。

 ――――ここはどこだ?


 富士見一守(かずま)は、辺りを見渡す。

 ほんのりとロウソクに照らされている薄暗い部屋。

 床には円形の幾何学的な模様が刻まれており、その中に一守を含めて四人の日本人が茫然と立っている。


 そして、一守たちを囲むように、白を基調とし、青の刺繍が施された騎士服を着た男たちがいる。

 中世ヨーロッパの映画から、そのまま抜け出てきたような人たちに、一守は違和感を覚える。


 そして、彼らの中央には、ひと際豪華な衣装を身にまとった、老齢の男がいる。

 宝石を身に着け、金銀のきらびやかな衣装から、その人物がこの中で最も偉い人物であることがわかる。

 男性は歳に似合わない大きな声量で言った。


「ようこそ、勇者様」


 一守は混乱した頭で状況を整理する。

 ついさっき、高校の校門を出て、家に向かって歩いていたところだ。

 家に帰ってゲームでもしようか、と考えているときだ。

 突如、目の前の景色が入れ替わり、今に至る。

 まさか異世界転移でもしたのか……? と突拍子もないことを考える。


 いや、そんな漫画みたいなこと起きるはずがないか。

 危ない宗教団体に誘拐拉致された、と考える方がまだ納得できる。

 それはそれで非常に危険な状態であり、一守は警戒心を強めた。


「混乱されているだろうが、わしの話を聞いてはくれぬか?」


 一守を含めた召喚者たちは頷く。

 すると、男は事情を説明し始めた。

 男から語られる話はさらに荒唐無稽なものだった。


 まず、男はとある王国の宰相らしい。そして、この世界は一守たちがいる世界とは別の世界であるとのことだ。いわゆる異世界だ。

 この世界は加護や魔術がある世界で、一守たちは勇者として魔王を倒すために召喚された。

 魔王とは魔族を束ねる王のことである。


 魔族と人類は何十年も前から戦争をしている。

 魔族が人類の都市をまるごと焼きはらったことで、人間が報復するために戦争が始まったと言われている。


 魔族は強力な魔術を扱え、個の力で人類を圧倒してきた。

 それに対し、人類は魔族と比べて数が多く、その利点を生かして戦っているのが現状だ。


 しかし、ここ数年劣勢が続き、とうとう守りの拠点である場所が魔族の卑劣な戦略によって奪われてしまった。

 魔族は残忍で、人を痛めつけることに快楽を覚えるような種族であり、このままでは人類が魔族の家畜となりかねない。


 それを食い止めるために勇者召喚が行われた。

 なお、勇者として召喚された者は、加護と呼ばれる強力な力を得る。

 加護の力で世界を救ってほしいとのことだ。


 話を聞き終えた一守は身勝手な話だと思った。

 男の言うことが事実かどうかなんて、どうでも良いが、一守のような戦争とは無縁の人を巻き込まないでほしい。


 一守には一守の生活がある。

 日本から勝手に召喚して世界を救って欲しいなんて、あまりにもこちらを馬鹿にしている。


 召喚された他の日本人も同じような考えだと思い、一守はそちらに目を向ける。

 しかし、彼の予想に反し、他の者は男の話に同情していた。


「わかりました。苦しんでいる人たちを見捨ててはおけません。俺達で世界を救ってみせましょう」


 一守と同じ高校の少年がいった。

 イケメンであり、一守でも顔と名前を知っているほどの有名人だ。

 たしか、強豪サッカー部のキャプテンを務めているらしい。


「そうですね。幸い僕たちには救える力があるようです。大いなる力には大いなる責任が宿ります。その責任を果たすためにもあなたたちの力になりましょう」


 眼鏡をかけたインテリ風な男が言った。 

 どこかで聞いたことのあるセリフをドヤ顔でいう姿に、一守は寒気を覚えた。


「この世界の人たちがかわいそうです。私に何ができるかはわかりませんが、見捨ててはおけません」


 そういった女性は一守と同じクラスの美少女だ。

 男女ともに人気があり、クラスの華となっている子であり、一守も無意識に何度か視線がいってしまうような、綺麗な少女だ。


 一守以外の面子は、人類を救いたいという意思を表明した。

 なんで、お前らは他人のために命を張れるんだ? そう言いたくなるのを一守は我慢した。

 勇者として召喚されたということは、その素質があるものたちなのだろう。

 一守は自分だけ場違いな気がした。


「ありがとう。人類を代表して礼を言うぞ」


 男は深く頭を下げる。

 それに対し、イケメンの少年は「顔を上げてください」という。


「世界は違っても俺達は同じ人間です。一緒に戦いましょう」


 異世界に召喚されて間もないのに、彼らは世界を救う気満々だ。よい雰囲気が作られているところ悪いが、一守はペースが速すぎてついていけないでいた。


「勇者様を召喚する際、『世界を救ってくれる存在を召喚してほしい』という願いを込めた。そなたらを見て、儂は確信した。そなたらなら、必ず世界を救ってくれるだろう」


 イケメン少年は力強くうなずく。

 眼鏡の少年は「期待に沿えるよう頑張りましょう」と言い、美少女は「わかりました」と男の目を見た。


 こうして、一守たちの魔王討伐の旅は始まった。

 一守は魔王を倒す気はなかった。しかし、一人だけ嫌だとは言えず、勇者一行として旅をすることになった。


■ ■ ■


「どういうことだ――――!」


 一守は叫ぶ。

 そこは暗い洞窟の中だ。

 結界が張られ、洞窟の奥に一守は閉じ込められていた。

 結界は眼鏡の少年が作り出したものだ。


「お前は用無しなんだよ。自分の体しか直せないクズが一緒にいると困るんだよ」


 一守を見下すように言ったのはイケメンの少年だ。


「困るだって? 別に迷惑をかけてないだろ……」


 一守の授かった加護は再生の加護だった。

 自身の傷を治すという一見チート染みたものだが、実際は他のメンバーに比べたら全く役に立たないものだった。


 イケメン少年のような剣聖の加護で敵陣に突っ込めるわけでもなく、眼鏡の少年のような大魔道士の加護で戦略的な魔術が使えるわけでもない。美少女のような聖女の加護で人々を癒すこともできない。


 できることといえば、肉壁になることと荷物持ちになることぐらいであり、圧倒的に実力が足りてなかった。


「迷惑をかけていないと本気で言っているのですか? あなたがいるだけで僕たちは戦術を変えなければならないのです」


 そう言われれば、一守は何も言い返せない。


「だが、こんなところで追放だなんて……」


 洞窟の奥には魔物の群れが潜んでいる。

 ここで置いていかれたら、一守には絶望が待っているだけだ。


「だから、だよ。わかんねーかな? お前が邪魔で仕方なかったんだよ、俺は」

「このことは……彼女は知ってるか?」


 この場には一守とイケメン少年と眼鏡の少年しかいない。

 一緒に召喚された美少女がいないのだ。


「ああ、合意のことだ。お前は見捨てられたんだよ。今から、あいつは俺らと愉しむんだからな」

「そうですよ。あなたの生存を望むものは誰もいません。ここで魔物の餌食になりなさい」


 眼鏡の少年がそういった直後、洞窟の奥からもぞもぞと影が蠢く。


「ま、待ってくれ! 置いていかないでくれ!」


 一守は必死に叫ぶが、少年たちの足音が遠ざかっていく。

 一守は後ろを振り返った。

 そこには果てしない闇が広がっている。そこから爛々と輝く複数の赤い瞳。

 もぞもぞと蠢く魔物――ムカデたちだ。


 一守も戦闘経験はある。

 だから、ムカデ一体だけなら、倒すことができる。だが、目の前にいるムカデの数はどうあがいても一守が勝てる数ではなかった。


「な……なんで俺がこんな目に……」


 別に悪いことは何一つとしてやっていなかった。

 魔王討伐だって、嫌々ながら参加していた。

 こんなひどい目に合わされる謂れはない。

 しかし、考えてもしかたない。一守は、ああああああぁぁぁぁ、と叫び声を上げてムカデの群れに飛び込んだ。


■ ■ ■


 内臓が飛び散る。

 夥しい血が流れ続け、血の池が出来上がる。

 こびり付いた赤が黒く変色し、一守の体を覆っている。

 髪が真っ白になり、死人のような瞳をしている。

 一守の口の中にムカデが入り込む。

 そして、腹の中をもぞもぞと小さなムカデが這う。


「あああぁぁぁぁぁぁぁ――――――」


 それは言葉では言い表せない激痛を伴う。

 悲鳴が洞窟に響き渡る。


 全身をムカデに食べられ、侵され、それでも一守は加護のおかげで生きながらえていた。

 時間の感覚を忘れるほど、蝕まれ、一守は痛みに痛みを上乗りしていく。


 全身をムカデがずるずると動く。

 気持ちが悪い。

 ああ、死んでしまいたい。

 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い――――――。


 地獄の朝を迎え、絶望の夜を迎える。

 それから永遠とも呼べる苦痛の日々が一守の心を蝕んだ。


 なぜ、こんな目に合わなければならない?

 何が悪い?

 何を憎めば良い?

 ああ、簡単だ。

 復讐する相手は決まっている。

 奴らだ。

 ―――――あいつらを殺してやる。


 一守がそう決意をしてから、月日が流れた。


 いつの間にか、ムカデはいなくなっていた。

 否――一守が一匹残らず、殺し尽くしたのだ。

 痛みには慣れた。

 時間をかけて、確実にムカデを殺していった。


「あははははははは、楽しいなぁ! 殺すって最高だぁ!」


 一守の精神は崩壊していた。

 結界の前に立つ。

 大魔道士の加護は伊達じゃなく、この結界を破壊するのは困難を極まる。

 それこそ、剣聖の加護レベルの力が必要だ。


 だが、これを破壊しなければ外に出られない。


 今までの一守だったら、結界を壊すのは不可能だった。

 しかし、今なら可能な気がする。


 魔族や魔物を殺すことでマナと呼ばれる力が増幅される。

 マナが多くなることで、身体能力や魔術の威力が上がる。

 洞窟にいる大量の魔物を殺したことで、一守のマナは増幅されていた。


 一守は腕に力を込めた。


鉄拳(アイアン・フィスト)


 右手が熱を帯び、血液が沸騰する。

 鋼鉄の腕で結界を殴った。

 一度で結界を壊すことはできない。

 だから、一守はひたすら殴った。


 ぱりん、と結界が音を立てる。

 一守はさらに力を込めて拳を振った。

 その瞬間、結界が砕け散った。


 久しぶりに洞窟の外に出ると雨が振っていた。

 曇天の空だ。

 そんな雨を一守は楽しんだ。


「まだ、全然足りない」


 復讐を遂げるには力が足りていない。

 今の一守が挑んでも、勇者一行に一瞬で殺されてしまうだろう。

 それでは駄目なのだ。

 何年、何十年経ってでも、やつらを殺さなければならない。


 一守は力を蓄えるために各地を回った。

 旅の途中で知ったことは、一守が大罪人として世間から批難されていることだった。

 魔族と内通していた裏切り者というありもしないレッテルを貼られていた。


「どうやら、お前たちは本当に死にたいようだな」


 一守の憎悪はさらに増すことになった。


 それから数年後。

 魔王が勇者一行によって討伐された。

 勇者たちは人類を救った英雄として称賛され、王都にて凱旋パレードを行っていた。


 絢爛豪華な馬車が王都のど真ん中、王城まで続くメインストリートを進む。

 そんな中、ぽつんと一人の青年が佇む。

 ぼろぼろの服を身にまとった不良者のような青年だ。


「誰だ、貴様!」


 騎士の男がそういって青年、もとい、一守のもとに駆け寄る。

 次の瞬間――騎士の腹に一守の拳が突き刺さった。


 きゃああぁぁぁぁ、と絶叫が響き渡る。

 馬車は歩みを止め、そこから、イケメンの青年と眼鏡の青年が出てきた。


「お前は……」


 イケメンの青年が一守を睨む。


「久しぶりだな」


 一守はにぃーと口の端を吊り上げて嗤う。


「生きていたのですね」

「ああ、地獄から這い上がってきた」

「ふんっ、僕たちへの復讐ですか? やめておきな――」


 眼鏡の青年がそう言い切る前に、青年の頭が捻れていた。

 その場にいた者は、一守を除いて、何が起きたかを理解できなかった。


「……なにをした」


 剣聖の青年が呆然と呟く。


「移動しただけだ」


 一守は普通に歩いて(・・・・)眼鏡の青年の前まで行き、頭を胴体から引きちぎっただけだ。

 それがあまりにも早くて、彼らの目に映らなかっただけである。

 イケメンの青年は信じられなかった。


 再生の加護しか持たない一守が、剣聖よりも早く動くなど不可能だと、イケメンの青年は思った。

 だから、何か魔術を使ったのだと考えた。


 しかし、一守は魔術など使っていないし、使えない。

 一守のマナの量が彼らとは比べ物にならないほど多いだけだ。


 一守のマナ量に気づいたイケメンの青年は叫ぶ。


「なぜ、お前が……それほどのマナを持つ!?」


 一守は口元を歪めて言った。


「俺が魔王を倒したからだ」


 勇者たちが倒したと思っていた魔王というのは、魔族の幹部の一人でしかなかった。その中でも最弱と言われている魔族だ。

 対して、一守は魔族の幹部を皆殺しにし、そして、魔王も殺した。

 何度もリジェネで回復し、一人ひとり殺していったのだ。


「そんな、馬鹿な……」


 剣聖の少年がそういった瞬間――。


「下がってください!」


 騎士たちが一守を囲んだ。

 しかし、騎士程度で一守を止められるはずがない。

 一守は一瞬で彼らを皆殺しにする。

 そして、イケメンの青年のもとにいった。


「ひぃ……殺さないでくれぇ」


 青年は無様に声を上げて、背を向けて逃げる。

 だが、一守はゆっくり(・・・・・)と歩く。

 そして、少年の腕を掴んだ。


「あはははははははははっ、安心しろ。今はまだ殺さないよ。そんな簡単に殺さないから、覚悟しとけ」


 その後、王都で騎士を虐殺した一守はイケメンの青年とともに街から消えた。

 数年後、不気味な言葉を発し、常に視線を彷徨わせ、口からよだれを垂れ流す男が王都に現れた。

 その男の体中には見るも無残な傷の数々があった。

 それが剣聖の加護を持つ勇者だとは誰も気づかなかった。


 イケメンの面影もなく、不細工な顔で泣き喚く男は無様だった。

 男は不審者として捕らえられ、処刑された。


 そして、かつての魔王が住んでいた場所。

 魔王城の最奥にある部屋で、一守は豪華な椅子に座っていた。

 一守の横には美女が控えている。

 それは聖女の加護を持つ、一守と一緒に召喚された女性だ。


「お前のおかげで魔王を倒し、奴らに復讐できた。感謝する」

「感謝など不要です。あなたと同じく、私も彼らを殺したいほど憎んでおりました。目的が一致しただけです」


 美女は一守と同様に、冷たく死人のような目をしている。


「次は俺たちを召喚した人類への復讐でもしよう」

「そうですね。それが世界を救うこと(・・・・・)にもなりましょう。人間こそが諸悪の根源、世界から見たら害悪でしかありませんので」


 その後、彼らを召喚した宰相の願い(・・・)通り、世界は救われることになった。

 人類滅亡という最悪の形で――。

追放系は全く読んでこなかったのですが、書いてみることにしました!

こういう展開って難しいですね笑

どうやったら気持ちの良い追放やざまぁを書けるのかわからず、結果、上手く書けている人を尊敬する境地に達しました。


本作のオチは救いのないものですが、普段はもっとハッピーな話を書いています!

よかったら見に来てください!

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