エアリアとロロ
「ほぇ〜、大きいべさ」
アルステラ魔術学院の門の前に到着したロロは魔術学院の広大さに目を見張る。
流石王都に建てられているだけあってその荘厳さは言葉では言い表せない。
「ここの学長さんに師匠の手紙を渡せばいいんだよな」
ひとしきり感動した後中に入ろうとするが、門の警備員に止められる。
「なんだべ? オラここの学長さんに用があんだけども」
無言で警備員はロロに手を出す。
その警備員の手にロロは布袋から出した干し芋を乗せる。
「······何だこれは?」
「干し芋だ」
「何で干し芋を乗せたと聴いているんだ」
「手を差し出してくっからお腹空いてるのかと思って」
「違う。学院に入る為の許可証を出せと言ってるんだ」
「許可証? オラそんなもん持ってねぇ」
「なら許可証の代わりになる物は持っていないか? 無いと学院に入れる訳にはいかんのだ」
「代わりになるもん? それなら学長さんに渡す予定の手紙があるだ」
布袋から手紙を出し警備員に渡す。
「···中身を見させてもらうぞ」
警備員は封を開け手紙の中身を見ると顔色を変える。
「エレメンティア·ハーバイド!? まさか大魔導師様からの手紙かっ!?」
「んだっ。師匠から学長さんに届けろと言われてるだ」
「師匠っ!? ちょっと待ってろ、今学長に確認する」
警備員は門の横にある警備員小屋に入っていくと魔導電話で誰かと話をする。
ロロが返された干し芋を食べながら待っていると警備員小屋から警備員が出てくる。
「今からここに学長が来る。少しの間待っててくれ」
そう言われて待つ事数分。学院側から一人の女性が歩いてくる。
「お待たせしたかしら?」
紺色の髪をポニーテールにしてまとめた、二十代前半に見える耳が長く尖った女性がロロと警備員に声をかけてくる。
「わざわざすみませんナーゼ学長。こちらが例の手紙です。
警備員は背筋をピンと伸ばし、先程ロロから受け取った手紙を女性に渡す。
「ふむふむ」と渡された手紙を読む学長と呼ばれた女性――エアリア·ナーゼはチラチラとロロと手紙を見比べる。
「······なるほどね。わかったわ」
手紙をたたみ胸ポケットにしまうとロロに顔を向けるエレメンティア。
「ロロ君でいいのかしら?」
「んだ。オラはロロです」
「そう、私はエアリア·ナーゼ。このアルステラ魔術学院の学長をしているわ。手紙の内容はロロ君知ってる?」
「んにゃ、師匠にはアルステラ魔術学院の学長に手紙を渡せとしか言われてねぇです」
「はぁ〜、あの人らしいわね。この手紙にはね、あなたをこの学院に通わせるようにと書いてあるんだけど」
「オラがここに?」
「ええ、でも何も無しで通わせるのは難しいからとりあえず今から試験をします。ついてきて」
「わかっただ、警備のおっちゃんありがとな」
「ああ、試験頑張れよ」
エアリアがロロを連れてきた場所は生徒が訓練や模擬戦を行う訓練場。
「早速だけど、君には私と戦ってもらいます。弟子を取りたがらないティア先生が私以外を弟子にしたんだもの。強いんでしょうけど、どの程度強いか見せてもらうわ」
服の内ポケットから三十センチぐらいの杖を取り出し構えるエアリア。
対するロロは背負っていた布袋を訓練場の端に置き、右肩に担いでいた布を巻いている棒状の物を手に取り布を外す。
中から出てきたのは幅五センチ、長さは一メートル二十センチある深紅の金属棒だ。
それを見た瞬間エアリアの表情が驚愕に変わる。
「まさかそれはヒヒイロカネ!?」
「んだ。オラの故郷では沢山取れるんだ」
「幻の金属が沢山!?」
「んだ、じゃあ行くだ!」
ロロがエアリアに向かって駆け出すと同時にヒヒイロカネの棒が発光し、形が変わっていく。
「まさか、ヒヒイロカネの金属加工!?」
メタルクリエイトの魔法は、大地加工の上位魔法である。しかも、幻の金属ヒヒイロカネのメタルクリエイトとなると膨大な魔力と緻密な魔力制御が必要となる。
「くっ、マジックエアシールド!!」
咄嗟に魔法防御を展開するエアリアだが、ヒヒイロカネの武器ならばこの魔法防御では心もとない。
(こんな事なら予備の杖なんかじゃなく、ちゃんと杖を持ってくるべきだったわ。さぁ、ヒヒイロカネをなんの武器に変化させるのかしら? 刀? 剣? 槍? 斧? いずれにしても防いでみせる!)
エアリアは身構えるが、変化したヒヒイロカネは農作業でよく使うあれによく似ていた。
「えっ? 鍬?」
エアリアは一瞬気が抜ける。その瞬間をロロは見逃さなかった。
鍬を大地に振るい詠唱する。
「大地よ、隆起せよガイアクラッシャー!!」
短縮詠唱した土の上級魔法がエアリアを襲う。
「くっ、上級魔法で短縮詠唱まで使うのっ!?」
なんとか風の防御魔法で防いだエメリアは反撃の手に出る。
「炎滅せよ、フレイムブラストっ!!」
短縮上級魔法には短縮上級魔法と言わんばかりに火の短縮上級魔法がロロに向かって放たれる。
ズドーン!!
ロロが居た場所が爆発し、土煙が上がる。
しまった、やり過ぎたと一瞬思ったエアリアだったが、土煙が消えるとその感情は驚きに変わる。
ロロが居た場所には見事な要塞が建っていた。
「まさか、土上級防御魔法を無詠唱で!?」
「ん? このくらいアースクリエイトが使えるなら楽勝だべさ」
要塞の中から簡単に告げるロロに思わず苦笑いするエアリア。
「···強いんだろうなと思っていたけどまさかこれ程とはね。合格よ、ロロ君」
「ほぇ? もう合格でいいのけ?」
「ええ、合格に値するだけの魔法は十分に見せてもらったわ」
ハッキリ言って魔術学院に通う必要があるのかというレベルをロロは見せつけたのだが、エアリアはこの金の卵を逃さない為に余計な事は言わない。
杖をエアリアが服の内ポケットに戻すと、ロロもヒヒイロカネを元の棒に戻す。訓練場の荒れ具合を魔法で綺麗にしたエアリアはロロをじっと見つめる。
「あなた長旅で結構汚れてるみたいだし、とりあえず魔術学院の寮に行きましょうか」
アルステラ魔術学院の寮は魔術学院内にある。まずは寮の管理人をしてる寮母にロロを紹介する為、ロロを引き連れて管理人部屋に向かうエアリア。
「ノワさんいらっしゃるかしら?」
管理人部屋のドアをノックし呼びかけると「はい、今開けます」と部屋から聞こえ、ドアが開く。
中から現れたのは、十二歳のロロよりも幼そうな小さな女の子。
「あらら、学長先生がわざわざ寮に来るなんてどうしたんです?」
「新しく特待生として学院に通う事になった子を連れてきたのだけど。紹介するわね、後ろにいる子がロロ君。ロロ君、この一見子供に見える人はドワーフ族のノワさんよ。この寮の寮母さんをしてくれていてロロ君もこれから色々とお世話になると思うわ」
「わぁ、ドワーフ族の方だべか! 初めてドワーフ族に会っただ。今日からお世話になるロロです。よろしくお願いしますだ」
「寮母のノワです。よろしくねロロ君。それとロロ君汚れているみたいだし、先にシャワーでも浴びてきたら?」
「シャワー? お風呂の事け?」
「うん、そうよ。学長先生はちょっと待ってて下さい。彼をお風呂場に案内するので」
「わかったわ、ロロ君をお願いね」
寮母のノワに連れられて風呂場に向かうロロ。
風呂場につきノワにシャワーの使い方を教えてもらって驚きながらシャワーで身体を洗う。
三十分経ってノワとエアリアが話している所に帰ってきたロロ。
「ロロ君お帰りなさい。綺麗になったわね。サッパリしたでしょ?」
「んだ、シャワーは便利だなぁ」
「綺麗になった事だし、それじゃあノワさんに部屋の鍵をもらったからロロ君の部屋に行きましょうか」
「んだ」
ノワと別れ、寮の階段を上っていき三階に着くと右側の一番端の部屋に向かい鍵を開ける。
「さぁ、ここが今日からロロ君の部屋よ」
ドアを開け中に入ると机とベッドとタンスが備え付けられていた。どうやら一人部屋らしい。
「おぉ、こんな綺麗な部屋がオラの部屋? お金とか良いんだべか?」
「えぇ、いらないわ。あなたはこれから特待生としてこの学院で生活してもらうから寮費と食費、学費は全額免除だから安心して」
「それは助かるべ。一応師匠から生活費はもらったんだけども」
「それは大事に取っていなさい。それと明日から魔術学院の一年生として特別クラスの一年S組で勉学に励んでもらうから。今日は長旅の疲れもあるだろうし、このへんで失礼するわ。明日朝迎えに来るからね」
「んだ、今日はありがとうございましただ。明日もよろしくお願いしますだ」
「じゃあね」とエアリアは部屋から出ていった。
ロロは荷物を壁に立て掛けてベッドにダイブする。
「ああ気持ちいいべ。いきなり学校に通う事になってしまったけんど楽しみだなぁ」
明日からの学院生活に思いを馳せながら長旅の疲れのせいか夢の世界に旅立った。
◆◆◆
――エアリア視点。
ロロ君から受け取った手紙には『ロロという子供に二年間魔法を教えた。面白い奴だからアルステラ魔術学院に通わせてやってくれ。エレメンティア·ハーバイド』としか書いていなかったけど、とんだ拾いものだわ。模擬戦での評価は厳しく見てもA級魔術師レベル。それも二年間だけしか魔法を教わっていないのにも関わらずだ。あの子ならマギスフィア出場も夢じゃない。
諦めかけていたけどこれなら私の願いも叶うかもしれない。
頼むわよロロ君。私をマギスフィアに連れてって。
読んで頂きありがとうございました。