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第78話 三色旗のリベンジ(6)

 本当に使えない連中だ。

 泥ネズミなんざ、所詮寄せ集めの野郎の集まりだ。

 武術なんてまともに使えもしない。この俺が教育したところで剣を振り回すことしかできやしない。

 ましてこんなガキに一瞬でやられるなんざ、恥さらしもいいとこだ。

 それにしてもサンディの野郎は何でこんな奴らを生かして逃がしたんだ? 弱い奴に利用価値なんざないってのに。まさか、こちら側にこいつらがつくとでも本気で思っていたのか? 利用できないなら、信用できないなら殺すしかねえ。

 そんな分かり切ったこと、あの時気が付かなかったあいつのせいで、こんなにも手間が増えちまった。

「あの時殺してやっていれば、お互いこんな苦労はしなかったのによお」

 崩壊した噴水の横でうつ伏せになったまま動かない、自称海賊のガキに、唾を吐いた。頭を殴りつけてやっただけで気を失うなんてつまらないにも程がある。サザーダ人のガキか、茶髪のガキの方がまだ楽しめただろうな。

 さっきまで粋がっていたガキは打ちどころが良かったのか、噴水の角に上手くぶつかって気絶うつ伏せのまま。

 噴き出した水と血が混じり、俺好みの色に石畳が染まっていく。それでもこの退屈は紛れない。

「おいおい、まさか死んだのかあ?」

「…………」

「頼むからもう少し楽しませてくれよ、なあ!」

 アザラシのように地面に伏したままのガキの襟首をつかみ上げ、自慢のローブを見せつけた。

「見ろよ、これ。お前のとこのサザーダ人がよぉ、炎ぶっ放しやがったから、焦げ付いちまった。いたいけな民の大事な物を傷つけるなんざ、女王の犬は躾がなってないな」

 躾には痛みが一番いい。しかもこいつはまだ意識がある。阿保みたいに口を開けて虚空を見つめているだけだ。

「………」

「海神ルカ様とやらにお祈り中か? 俺が殺した中には最後まで神に助けを求めてたやつもいたが、救いも奇跡もねえ。神なんざこの世界のどこにもいねえんだよ!」

 奴の腰にあるナイフを奪い、喉元に突き刺す寸前。

 ―――鼻歌?

 命を刈り取られる一歩手前で、奴は喉の奥から音を震わせている。

「何唄ってやがる」

 気でも触れたか? 

三日月のように口角を上げ、笑い声をあげたかと思えば、ぴたりと固まった。

「あんま顔近づけんな。臭うんだよ、おっさん」

「———っ」

 ギラギラとしたその目はさっきまでとはまるで違い、思わず振り落とした。

「———この世全ての水は海神に帰す。ラノメノ教もグラシアール教も俺は知ったこっちゃないがな。海神ルカは存在するぜ」

 どういうことだ。流した血は止まり、刺したはずの左腕も剣を握れる程に回復している。

「そういや、あんたに聞きたいことがあった」

 少し驚かせたぐらいで優位に立ったとでも思っているのか、べらべらと喋り始めた。

「あのサンディ、ってやつが………。オスカーとカルマを、襲ったのか?」

「あん?」

 どうでもいいことを偉そうに。どこまでも俺をイラつかせる奴だ。

「俺がそんなこと知るわけ、ねえだろうが!」

 ジョラスは奪ったナイフを投げつけ、それを弾いた奴の懐に剣を突き立てんと踏み込んだ。それを素手で難なくいなしたアリスタは、手首を捻らせシャムシールを構えた。

「だろうな。あんたは所詮、ネズミの一匹にしか過ぎない。ネズミを操る笛吹野郎に踊らされてるだけだ。まあ、あんたみたいに卑しい奴がダンスの一つも踊れるとは思えないけどな!」

 さっきまでの鈍足とは打って変わって剣技に冴えが出て、

 軋む音にジョラスは驚愕の声を上げた。

「———なにっ」

 剣にヒビが入っただと?

 たかが海賊のガキが持つ剣が王都の騎士が使う剣に勝るというのか。

「何の細工をしやがった!」

「言っただろ? 俺には海神の加護があるって」

「調子乗んじゃねえぞ!」

 アリスタは不適に笑い、激昂したジョラスはヒビが入ったままの剣でアリスタの剣を弾き飛ばした。宙を舞った剣を見たジョラスはにたりと笑みを浮かべ、好機とばかりに踏み込むが、アリスタは立ち尽くしたまま。

「悔しいけどな、あんたには力じゃ叶わねぇことぐらい分かってんだよ!」

 体を背面に倒したアリスタの真上を銀の光を放つ物が一直線に飛び、それはジョラスの肩へと刺さった。

「———っ、があ!」

 それが矢だと分かり、ジョラスは上を警戒した。

 間髪入れずに放たれる二射目を弾き、ただの威嚇かと呆れた瞬間、見えない三射目が右の腿を貫いた。

―――(デコイ)だと!

 魔術ではない。同じ軌道上に次の矢をつがえてすぐさま放っただけの古典的な弓術。剣で弾くことを強制的に促し、死角に入った矢を確実に当てに来た。

「どこだ! どこから狙ってきてやがる! っ!」

 この方角、あり得ねえ。

 この高さには隣の街角の塔があるだけだ。

―――馬鹿な。

 この距離で弓矢を使える奴を、元から配置していたというのか。こちらからは狙撃手が逆光で見えない、逃げ場のない場所。

「この、ハメやがったな、クソガキ!」

「みっともなく叫ぶな。まんまとハマってくれてありがとよ、おっさん!」

「————っ、くそがあ!」

 まるで吸い込まれるように、矢が次々とジョラスに命中していく。

 両足、背中。

 ジョラスは足の矢を無理矢理引き抜いて、這うようにして広場から逃げ出した。


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