第1話 秘密の魔法
これは、広大な大河の上にある魂の記憶。
雪は水となり山に恵みを与え、氷は春の息吹と共に溶け、大海原へと帰る。
何百年、何千年と繰り返された大きな命の巡りの大河の中に私は立っているに過ぎない。
紅、青、黄、緑、紫、白、黒。
抹消された歴史の色を誰か証明してくれるのか。
私はそれを待っている。
あなたはそうして寂しそうに語り聞かせていた。
家族、姉妹弟たちが暖炉の前で聖樹祭のご馳走や贈り物で楽しんでいる時、あなたはいつも決まって外へ出た。冬の空が好きだと言って、薄着のまま何時間も。
不安だった。
あなたがいつかどこかへ帰ってしまうのではないかと。まるで自分はここにいるべきではないと、そう言っているようだった。
僕は少し早い誕生日プレゼントをねだった。
―――ねえ、エミールの魔法を教えてよ。
―――言っただろう、使うときが来たら見せてあげるって。
冬になれば交わされる決まり文句。
そして季節が巡って彼はその魔法を行使した。
あなたは心底悲しそうに、辛そうに。
そんな顔をさせるくらいなら魔法なんて使わなくていい。僕は己の好奇心を恥じた。しかしあなたは何年も前から、僕が生まれるよりも前から、もう心に決めていた。
誰にも言わないと約束してくれるね。
君に課せられた沈黙は君を守り、そして苦しめるだろう。
僕と君だけに許された力だ。
大河を上り、水を雪へ、雲は海へと帰る。
これは、許されざる魔法だ。