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第61話 真実の声(8)

 シリウスだけ個室を与えられ、男八人は大部屋二つに分かれた。

 その夜更け、バルコニーでキセルの煙をくゆらせる黒衣の男に、騎士は近づいた。

「むきになったものだな、リャン。らしくないではないか?」

「あの白烏(ゼネロ)は元より気に食わん。聖人の皮を被った卑しさに吐き気がする」

「子ども相手に何を言っている」

 リャンの不可解な発言に、テオは冗談かと受け取った。

「成程、人は生まれ持って善人であると貴殿は考えるか。俺はその逆だ。人は生まれ持って弱く、脆い。自分本位に生きるものであると考える性質でな。あれは陛下や王国のためだと口では言うが、結局は自分の聖人性を保つための方便だ。己が醜さを認めない卑劣さよ」

「たとえそうだとしても、自分のために行うことは悪とは限らん。それが善行であり正しい答えになることもあるだろう。王国を憂い、思うことの何が卑劣だというのだ」

「歴史は常に間違っている。過ちの積み重ねこそが歴史だ。その過ちを正しいと思ってしまえば善行を成すこともできない」

「ならば、これから俺たちが成そうとしていることも、いつかは過ちとなるのか」

「くく、その通りだ。しかし騎士道とは厄介なものだな。王に忠誠を誓えば王の言うことは全て正しいと押し付けることができる。その考えであの女王を潰してやるなよ、テオドロス卿。あれらは幼稚にすぎる。嫌われようが、汚れようが、道を示すのではなく、己で道を切り開く力を付けさせねば。その覚悟が貴殿にあるか?」

 歴史は過ち。その過ちを自ら体現することで立ち向かい、悩むことができる。

「そうか、そうだな。俺の考えが浅はかだった。君は俺よりも年下だというのに、随分と卓越した考えを持っているのだな」

「何、役割分断というやつさ。俺にはこれくらいしかできないのだから」

 リャンの吐いた煙が暗い空へと消えた。


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