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第57話 真実の声(4)

 食事が終わり、人心地つき、皆が湯あみを終えた頃、シリウスは暖炉の前で片膝を立てて炎を眺めていた。顔に出してはいないが、相当疲弊したのだろう。

「陛下、お休みになられては」

 テオはシリウス体を休めるように勧めるが、シリウスは首を横に振った。

「いや、今夜のうちに皆に話す。カルマ、もう少し我慢できるな」

「はい、陛下」

 カルマは自分の頬を叩いて目をこすった。

 七星卿全員が暖炉の前に集まり、皆、神妙な面持ちでシリウスの言葉を待っていた。

 オスカーはハーブティーをポットいっぱいに用意し、厨房から持ち出した。

城で見ることはなかった忠臣としての彼らの姿。

シリウスが立ち上がり、七人の顔を見渡した。

「件の犯人について、私はこの中に疑うべき者がいないと断定した。私個人の感情であり、根拠が薄弱だと指摘されれば否定はできない。するつもりもない。しかしこれは絶対の決定であり、今後も覆ることはないと、皆、心に刻め」

 いつもからかうリャンも、現実的ではない発言に否定するリゲルも、不平等を嫌うアリスタも、シリウスの言葉に反論することはなかった。まるでその言葉を待っていたかのように、彼女の金色の双眸を皆が見つめていた。

 そこでオスカーはようやく気が付いた。

 王都を離れたのは、皆の身の安全を保障すること、そして情報が漏れること防ぐためだ。

 そして七星卿のそれぞれが独自の手段と方法で事件の全容を調べていたことに。

 テオドロスは王都内の事件、ラノメノ教の関係者について探っていた。特にメアリー・ホーソンの死が怪しいと踏んでいたのだろう。

 リゲルは小評議会に目星をつけ、金銭の授受、家同士の諍い、噂の類まで調べつくしていた。

 アリスタとヴェロスは地下闘技場、そして行商人の調査、王都外の関係者の調査をしていた。危険故に、二人を組ませて行動させていたらしい。

 フィオーレは兼ねてより疑問に感じていた先王ギルガラスの死の誓約、およびグラシアール教関係者の身辺調査をしていた。白の国の出身である彼が適任ではある。

 以外にもカルマはそれらの情報の紙を各七星卿に渡すという重要な役を任されていた。

そしてリャンは検死と毒物の調査をしていた。オスカーがリャンの部屋に入った時、すでに彼はその調査の全てを終えていたらしい。


―――まさか。


 各々が危険を顧みずにただ一つの探求のために、オスカーに知られずに行動していたなんて。つまりこの遠乗りは次の段階へ進むための集いなのだ。

 女王と七星卿が王都を空けたと小評議会や小国に知られれば、玉座を狙われかねない。それでもなお、シリウスは決断したのだ。城にいたままでは誰がどこで何を聞いているのか分からない。出される食事、用意された飲み物、寝具、衣服。その全てを疑い、目を盗むことはできないと。

 シリウスは初めにリャンに視線を送った。

「朝食のナイフに付着していた毒、『砒霜(ひそう)』だがな、あれを手に入れる方法は五万とある。いつ手に入れたか分からぬものを探ることは困難だが―――」

「ちょっと待って下さい!」

 オスカーはたまらず挙手をしてリャンの言葉を遮った。

「あの食事、サジャの実以外にも毒物が見つかったんですか?」

 ああ、とリャンはオスカーの疑問の意図がわかり、愉快だと鼻で笑った。

「サジャの実に毒はない。あれは銀器についた速効性の毒だ」

「————え?」

 では、あの時の苦悩と絶望は何だったのか。混乱する頭を抱えて皆の表情を見ると、気まずそうにしていたり呆れていたりと、驚いている者は一人もいなかった。あの事件の日から皆、毒の正体を知っていたということになる。

―――もう少し追い詰められていたら、自害していたかもしれないのに!

 精神が崩壊寸前だった苦痛の日々は何だったのだ………。

「つまり、貴殿は騙されただけだ。良かったな、疑いが晴れて」

 自分はエサにされたということか。

 言いたいことは色々あるが、思い返せば彼らはオスカー自身を疑うことをしなかった。

 テオは申し訳なさそうに目を瞑り、リゲルは気づかぬ方が悪いとばかりにそっぽを向いた。

「話を戻す。『砒霜(ひそう)』は入手するのは難しいことではない。俺も持っているくらいだ。だが代わりに興味深いことが分かった。メアリー・ホーソンは転落死ではない。あれは毒によって死んでいた。毒で死んだ後に塔から落とされた、というのが正しいか。偽装するには常套手段ではあるな。メアリーの服から『砒霜(ひそう)』が付着していて、女中の部屋の暖炉から瓶が見つかった。メアリーが我々の朝食に毒を盛ったとみて間違いないだろう」

 しかし彼女から真相を聞くことはできない。

 全ては彼女の単独犯だというのだろうか。その結論に至ったものはこの中にはいなかった。彼女は女王と面識はない以上、裏があるに違いない。もしくは何かしらの陰謀に彼女は巻き込まれた可能性だってある。そう、彼女が死ぬ必要はないのだ。誰も彼女を疑ってすらおらず、辿り着くことすら時間を要した。目的は達成せずとも城から離脱すればいいだけだ。彼女ははじめから死ぬように仕組まれ、自殺を図ったと見せかけたかった誰かがいた。


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