第54話 真実の声(1)
一列縦隊で馬を進めていたが、中央にいたフィオーレはエリクスィール(フィオーレの馬)を止めて降りた。顔色が悪いことにいち早く気が付いたオスカーはフィオーレを追いかけた。彼は地面にうずくまり、胃の中のもの吐き出して苦しんでいた。
「フィオーレ?」
オスカーはフィオーレに水筒を手渡し、フィオーレは水筒の水で口をゆすぎ、袖で口を拭いた。
「申し訳ございません、お見苦しいところを。皆さんを止めてしまったみたいで」
「気にしないで、それより………」
気丈に振舞っているが、フィオーレがこんな風に体調を崩すなんて珍しい。
「聖獣の声を、聞きすぎたからです。陛下と違って、私は女神の血を引いているわけではありません。少し彼らの視点も持っているに過ぎないので」
聖職者であっても聖獣の放つ力の気にあてられるのだ。少しの耐性とその目を持つ穴蔵人だからこそまともに影響を受けたのだろう。
シリウスとの問答に神庭の鹿が付き合わなかったのは、その時間制限があったのかもしれない。
―――そうか、僕が見えていたことは皆分からないのか………。
「フィオーレだって、シリウスより一つ年下なだけだから。もう少し頼っていいんだよ」
弱り切った白兎のようで、オスカーはまともに立てない程に弱ったフィオーレを抱えた。
フィオーレは本当に人であることを疑う程に想像以上に軽く華奢だ。
「じ、自分で立てます!」
珍しく慌てたフィオーレが新鮮で、オスカーは少し愉快な気分になった。
シリウスを先頭に皆馬を止めた。
「ちょうどいい、狩場にも入ったことだ」
狩りをしながら移動して、狩猟小屋を目指すことになった。
予定よりも森を早く抜けたことで、日が落ちる前には狩猟小屋に着くことが叶いそうだ。
狩りにはテオドロス、リゲル、アリスタ、そしてシリウスの四人で行くことになった。残りの五人は休憩をしながら、夕食に使う木の実を集めた。
フィオーレは自らで煎じた薬を呑み、体調を整え、人心地がついたようだった。
リャンは単に煙草休憩をしたかっただけのようで、煙をくゆらせていた。
「しかし、飛龍の騎士はともかく、リゲル卿は弱音を吐かずについていくとはな。あの幼さでよくもまあ耐えられるものだ」
「そうだね、リゲルもシリウスも体力があって羨ましいよ」
リゲルが華奢な体躯に似合わず疲れを見せないのは、きっと青の国で幼少から仕込まれたからなのだろう。
「女王の夜の相手をするには体力がある方が好都合だろうな」
「………リゲルの前でそれ言わないでくださいよ」
彼が不機嫌になることが目に浮かぶ。
「リゲル卿に似た姫ならば俺が貰ってやってもいいんだが」
なんとまあ、下世話な。本人たちがいないからこそできる会話だ。
「剣の相手なら僕だって!」
最近は毎朝テオドロスに稽古をつけてもらっているカルマは、自信たっぷりに勘違いした。