第26話 星の名の神童(5)
初夏の夜の静寂。風がやみ、虫の音が遠ざかる深い時間。
松明だけが照らす射撃場に一人、遠く離れ枝を離れた葉を狙い、矢をつがえた銀糸の髪の少年。夜の暗闇に溶け込むような漆黒の弓を持ち、氷のような目は矢先が葉を射抜くことをとらえていた。
「―――っ」
背後に飛来物の気配を感じた少年は体を反転させ、矢を放った。
撃ち落されたのは木製のナイフ。
闇からゆっくりと拍手をしながら現れた黒服の男。
「流石、フローライト家始まって以来の天才と称されるだけはあるな。暗がりでも射落とせるとは、白鷲というより梟だな、リゲル卿」
「何の用だ」
「随分と楽しそうだったな」
「用件を言え」
「貴殿から見てどうだ? 好物と貴殿お得意のクロッカで上手く釣れただろう」
「策を考えた自分の手柄だと言いたいのか?」
「講じた策の効果を確かめたいだけだ。他者の言葉を引き出すには自分の過去を語ることが得策だ。それも噓偽りのないことを雄弁に」
「覗き見とは悪趣味だ。それが黒の国の風習か?」
「いいや。黒曜人の探究心を満たすには世界を旅するだけでは足りないのでな」
「俺があいつにどんな印象を持とうが貴様に伝えるつもりはない。俺は信用していない、貴様もあいつもな―――」
その声に温度はない。
「二度と俺にこんな真似をさせるな」
二人の会話を盗み聞いていたその影は、うずくまったまま二人が立ち去るのを待った。