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第24話 星の名の神童(2)

 小評議会が行われるのは中央の棟二階の広間。東西南北の棟に直結した二階は鐘が鳴れば議員たちは棟を渡り広間に入る。人数の制限はないものの、中央集権体制を取り続け、現在は十一名で構成されていた。七星卿には王国諸侯と同等に小評議会に参加する権限が与えられている。独立していた小国にとってその席に座るのは実に百年ぶりであった。

 中央の棟の広間の重厚な扉は会議が始まるまで開け放されている。

 衛兵がリゲルに気づき慌てて姿勢を正して敬礼するが、リゲルは一瞥もくれずに広前へ入った。

 広間の前を通ることはあっても、会議の間閉ざされているために中に入るのはオスカー自身初めてであったが、内装を見て驚きの声を漏らしてしまった。

吹き抜けの天井からは光が差し込み、せせらぎや小鳥のさえずりも聞こえる。仄かに香る甘い匂いはラベンダーの香り。まるで憩いの場ではないか。

「口を閉じろ、間抜けに見えるぞ」

気づかぬうちに開いていた口をオスカーは慌てて閉じた。

―――城にこんな場所があったなんて。

 一年近く城にいても気が付かないこともあるものだ。

すでに広間のテーブルには評議員たちが着席しており、皆揃ってリゲルとオスカーに視線を向け、歓談を中断した。

リゲルは慣れた様子で空いている席に、オスカーは中央のテーブルから離れた一人用の机の席にそれぞれ腰をかけた。形式的にはオスカーに発言権はないものの、書記のポストが与えられていた。

法務大臣ベンジャミン・ルーサー候。

王都の金庫番、大蔵大臣カナリー・プランプトン候。

陸軍大臣トマス・カルタス候。

司祭長のシャルル、ミカエラ、ジェルナの三名。

議長兼、外務大臣補佐官クレイン・アルフォンシーノ候。

そして、外務大臣レイニー・ディック、魔法長、平民出身の市長は欠席している。

オスカーとリゲルを含めれば十名のみ。

 リゲルを注視する評議員たちは戸惑い、何人かが咳払いをした。

「どうした議長、始めて構わない」

 議長クレイン・アルフォンシーノはずばり物申した。

 彼は南方、入江の城アイギアロス城城主のアルフォンシーノ伯の甥にあたる。叔父の伯から推薦され小評議会の一員になったのである。テオドロス卿と変わらぬ年齢だが、背丈はオスカーと同じくらいの背丈で平均的に高いとは言い難い。しかし高いヒールの靴に派手な刺繍が施された衣服は悪目立ちしている。

「失礼ですが、リゲル卿。何故小評議会に?」

 ―――どういうことだ? 七星卿にも席があることは元よりシリウスからも聞いていた。

「七星卿には一名、小評議会の参加の席がある。俺では不服かアルフォンシーノ候」

「とんでもないです、リゲル卿。しかしそれでも卿は若すぎます。我々の議題は退屈極まりないのではないですかな」

 評議員たちから笑い声が漏れた。場違いであると嘲る笑い声だ。

「女王陛下と俺は同じ年齢だ。若すぎる王は許せて小評議会の参加は認められない理由でも?」

「陛下が若く幼いからこそ、小評議会がお支え申し上げるのだ。弱者を招き入れて土台を不安定にさせることもあるまい」

 淡々と反論するリゲルに対して、重低音が響く声で答えたのはトマス・カルタス候。大柄な体、全身鎧を身に着けているまさに陸軍大臣の名に相応しい風体である。

「では誰が適任だというのか。お聞かせ願おう、カルタス候」

「無論、テオドロス卿でしょう。年齢からしても適任。紅の国(エカルラート)にではリディアス・ココアニス候のご子息であり、テレイシオスの戦いの先導者。他の七星卿の方々はリゲル卿と同じく幼く政治のご経験もない」

 そのとおりだと他の評議員たちも頷き無骨者に賛同した。

―――これが大人のすることか?

 むかむかが喉元まで達してきて、オスカーは顔に出さないように歯を食いしばった。しかしリゲルは不適な笑みを返した。

「あの男は戦争ばかりで政治には疎い。貴公と同じでな」

 カルタス候は拳を叩きつけて、その衝撃で机が凹んでしまった。

「なんという侮辱だ! 撤回しろ、リゲル卿! 我々を何だと思っている!」

「勘違いされては困るな、カルタス候。これは飛龍の騎士本人が辞退し、七星卿の推薦で俺はここにいる」

 リゲルは丸められた羊皮紙を投げ、ルーサー候が手に取り、皆に見えるように広げた。そこには女王、並びに七星卿の署名及び家紋がある。

「はっきり言ったらどうだ。貴公らは七星卿が政治的に関わることを、小国が力を持ち王国の主導権を握られることが恐ろしいと。先王ギルガラス様の死の誓約は迷惑極まりないと。婚姻という形で我々と陛下が、小国と王国が繋がることが目障りだと。王都だけが豊かになれば他の小国などどうでもいいと。どうせ自分たちが死ぬ頃にはナヴィガトリアに王国は支配されているから関係ないと」

 能弁にしかし温度もなく語るリゲルに対し、カルタス候は噴火前の火山のように顔を真っ赤にさせ震えている。

「訂正しろ、リゲル卿! これは王国への反逆だ! 我々小評議会を何だと思っている!」

「反逆? 俺は陛下に忠誠を誓い、陛下のご命令を形にするためにここにいる。これを反逆と言い張る貴公こそ罪に問われるべきではないか?」

「話にならん!」

 カルタス候は鎧をガチャガチャと、大股で闊歩し広間を出て行った。

 広間はルーサー候の咳払いで静寂は破られた。

「あ、アルフォンシーノ候。続けてくれたまえ」

 驚くべきは誰もカルタス候に続かなかったことだ。まるで皆示し合わせていたかのように落ち着いている。元紅の国の騎士であったカルタス候からすれば青の国のリゲルは目障りだった。テオは分かっていて辞退したのかもしれない。

 ルーサー候はリゲルを諭した。

「人心を手放しては皆散ってしまいますぞ、リゲル卿」

「奴は我々を下に見ている。小国の統治者は辺境者扱いだ。これから北の侵略の対策もしなくてはならない以上、小国の協力は必要不可欠だ。侵略戦争が始まれば死ぬのはあの男ではなく、兵士一人一人。どうしてあの男のために死ねると思う? 南方という安全地帯から誇らしげに使いもしない鉄製の鎧を着て何の価値がある」

 正論。しかし年長者たちからすれば傲慢とも取れるリゲルの態度に、オスカーは肝を冷やしっぱなしだ。


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