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第20話 飛龍の騎士(2)

 三日ぶりの空の下は目がくらむ程眩しい。

 城の外に出ること自体もあまりにも久々で、町の様子もかなり変わっているように思えた。思えば、シリウスの身の回りの世話で手一杯で、外に出ようと思い至ることがなかったのだろう。

王都トワイライトは七つの小国の異なる文化を取り入れているため、建物や装飾、工芸品、食文化に至るまで、フェーリーン全土の文化を味わい尽くせるとされている。王都トワイライトには七つの街角(ストラータ)があり、小国もとい領主たちや使者たちを迎えるための屋敷がある。七星卿も入城前にはそれぞれの街角に滞在していた。

 それを象徴する連なる七色の三角旗が町の至るところに飾られ、絹茶色(エクルベ―ジュ)の建物や壁に映えて鮮やかだ。商業人も行き交い、先王の死後より町に活気に溢れているのではなかろうか。

 テオドロスは丈の長いローブと軽食を用意してくれていた。目立つ自覚があるようで、飛龍の騎士は目深にローブを被り口元までストールを覆っていた。しかしローブは腰のあたりで不自然な膨らみがある。

「…………」

 オスカーの視線に気が付いたテオドロスは、「ああ、これか」と柄に手を置いた。

「エレクトラ。当家に代々伝わる名剣だ。先日の一件で七星卿にも武器の貸与の許可が下りたからな。皆秘密裏に使い慣れた得物を手にするだろう」

 その名剣の名は武具や武勇伝に疎いオスカーでも耳にしたことがあった。

 テオドロスは賑わっている市場(バザール)を通らず、路地裏へと入った。街角が七つもあることと小国たちが己の国の権威を示すため、限られた場所で増設を繰り返したため、路地裏のほとんどは複雑に入り組んでいる。

 人の気配が全くない路地には長い階段が続き、テオは時折後ろからついてくるオスカーの様子を振り返り確認しながら進んだ。

「…………」

「この三日、何があったかきかないのか?」

「―――僕を処刑するための算段では?」

「成程そう思うのも無理はない。だが、皮肉は黒ずくめの専売特許だ。君には相応しくない」

「…………」

 相応しくない、なんて。あの時は自らを疑わしいことは認めたが、全力でかばってくれたのはカルマだけだ。目の前の騎士は、最初はオスカーを庇ってくれたが、最終的には引き下がった。七星卿全員を黙らせる力を持ちながらそうしなかったのは、彼もオスカー疑わしいと心のどこかで思っていたに違いない。勝手に疑われて皮肉の一つも許されないのか? 

 オスカーはむかむかとした気持ちを表情に出さないよう平静を装った。

「どこに向かっているのか、教えては貰えないんですか?」

「城の外まで薬を探しに行ったことがあっただろう。その道中で眺めが良いところを見つけたんだ」

「………」

「安心していい。この剣で君を斬ることはない」

「剣がなくとも殴殺とか絞殺もできますよ」

「あ、はは。それはそうだ」

 たどり着いたのは見晴らしのなだらかな良い丘。穏やかな風が吹き、青々とした草が足首までの高さに伸び、イトスギが空の高さを誇張している。規則的に並べられた石碑がいくつもあり、墓地であることが分かった。グラシアール教を国教と据える王国では、火葬も土葬も許されていた。滅びた肉体は土に返し、焼いた灰は海や空に撒く。どのように死骸を処理しようが大地にも空にも女神グラシアール存在するため、彼女の元に還ればそれでよいのだ。主流は火葬であるらしいが、自由な葬儀方法は拡大解釈されて鳥葬を行う村もあるという。



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