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第19話 飛龍の騎士(1)

 件の暗殺未遂事件から、三日が過ぎていた。

 オスカーは女王と七星卿の方針が決まるまで自室で待機を命じられたが、自分の身を守るという安全策では間違いのない判断だ。従うことに異論はなかった。

 初日は寝台から動けず、毛布に頭を埋め、眠れるように暗示をかけ続けた。

不安と恐怖、何度もリフレインする自分を見る目が変わったあの瞬間。


―――まさに、絶望(ロスト・ホープ)


 自嘲することすらできない程に心身共に消耗して、リャンからよく眠れる薬を貰っておけば良かったと小さな後悔をした。

 二日目の昼からは思考回路が多少はマシになり、これからのことを考えられるようになった。

 仮にこのまま処刑が決まったとして、誰が味方をしてくれるだろう。シリウスだけが頼みの綱ではあるが、七星卿、つまりは今後の小国と関係を考えればたかだが側近を切り捨てる選択肢を取ることだって考えられる。それとも、誰か女王のご機嫌取りにオスカーの無実の証明に奔走してくれたりはしないだろうか。処刑に対してはカルマ、テオドロスは反対。フィオーレ、リゲルは中立。リャン、アリスタ、ヴェロスは賛成、というところだろう。多数決で考えても分が悪いことに間違いはないようだ。

―――やることがなくても、三日続くと辛いものなんだな。

 この三日、食事と水はカルマが届けた。カルマはよくつまみ食いをしてオスカーに叱られていたが、今回ばかりは叱れなかった。カルマはあえてオスカーの食事に手を付けていたのだ。万が一毒が盛られていてもオスカーに影響がないようにと。こういうことは危険だから辞めるよう、オスカーは力なく叱ったがカルマは首を横に振り、何も言わずに部屋を去る。言葉を交わさないようにと言いつけられているらしい。

 四日目の朝、誰かが扉をノックした。音の大きさからカルマではないことはすぐに分かった。

 とうとう決まったのか、とオスカーは身を起こした。

 縄でくくられるか首を切り落とされるか。言い残すことはあるかというお決まりの問いに答える言葉はもう決まっている。皆が困惑する言葉を大声で叫んで、混乱の渦に叩き落としてやろう。

 意を決して、オスカーは扉の向こうへ返事をした。

「車裂きの刑だけは勘弁してくれないか」

 扉の向こうの主は戸惑いの息を漏らして答えた。

「………オスカー、何のことを言っている?」

 テオドロス卿。

「カルマから聞いた。オスカー、君は三日も部屋から出ていないそうじゃないか。居館までの自由は許されているはずだ」

―――居館も部屋も同じようなものだけど。

自分の身は自分で守れる人ならば、そんなことを安易に考えられるのだろう。この騎士は強くて自信があるからこそ堂々として弱者の味方でいられる。あの場での弱者はオスカーだったから味方をしただけなのだ。

弱者にとっての自由の身ということはそれだけ、危険で過酷だとこの騎士は理解していない。

「すみません。今は外に出る気には、とても………」

「いいから。今日から七星卿が交代で護衛にあたることになった」

「どういう、意味ですか?」

 本当に意味が分からない。護衛? 

「そうだな、詳しくはこの扉を開けてから話そう。いい加減、扉にばかり話しかけていては、俺が傍からは夢遊病だと思われてしまう」

 ならばそのままお帰り願いところだ。オスカーは更に体調が悪いフリをする言い訳の

数々を頭の中の引き出しから探し始めた。

「あの、僕………。今は頭が痛くて」

「断ればこの扉を蹴破るか、壁を破壊する」

「え?」

「三、二、一………」

「―――っ、行きます! 行きますから!」

 錠をかけていた扉を急いで開けた先にはにっこりと微笑む騎士がいた。


―――しまった………。


オスカーは騎士の笑みを見て、自分が古典的なハッタリに引っかかったと気づいた。

騎士はわずかに伸びた緋色の髪を後ろで束ね、麻布に肩から腰に掛けて革製の防具をつけている。

彼はオスカーを見下ろして、頭をガシガシと乱暴に撫でた。

「さあ、行こう。準備はいらない。任せたえ」


テオドロス卿のオスカーの話

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