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かつての祈りはいつかの君へ~狂王と呼ばれた少女~  作者: 白野大兎
女王が下す裁断
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第108話 真実の告白(4)

  メアリー・ホーソンを使い毒を盛ったのも。

 黒蛇を使って襲わせたのも。

 泥ネズミに資金援助をして裏で操っていたのも。

 カールハインツを口留めのために毒殺したのも。

 サンディカ・ローレスを焚き付け利用したのも。

「全て貴様が仕組み、実行したというのか?」

「ええ。無論です」

「———っ」

 即答するレイニー・ディックに、シリウスは言葉を詰まらせた。

「何を驚かれているのです? 陛下はもう、何もかもご存知のはずでしょう」 

 全ての罪を認めてもなお、彼は逃げない。

 万が一に備えてテオを同行させたが、抵抗はできないと分かっているのかもしれない。

「どうしてここまでのことを………」

 泥ネズミのようにアイギアロスの負の歴史を抱えていたのなら、先王の頃から仕えていたことは矛盾する。恨んでいる王にも娘にも臣下として仕え、外務大臣として真っ当に責務を果たした。ベルンシュタインを恨んでいるのなら、どうして忠臣でい続けたのか。王都で起こした事件を差し引いても彼の功績は計り知れないからこそ、その疑念が残り続ける。

 しかし模範的な諸侯であるはずの善行は全て黒かった。

「ホーソン家に貴殿が多額の見舞金を渡したというのも、父親に口封じをするためか」

「陛下がご想像の通りです。それで、私のことはどこまで? アルフォンシーノ伯に会ったのでしょう、テオドロス卿?」

 そう投げかけるディックに、握っていた柄から手を放したテオは訝しげに答えた。

「彼は貴殿のことを口に出すことはなかった。最後まで、先王の行いに疑問を抱き、良心の呵責に悩んでおられた」

「そうですか。カイル殿らしい。あの方はアイギアロスを故郷としながらあの場所に苦しみ続けていたようですから」

 まるで他人事のような口ぶりに、テオは眉をひそめた。

 シリウスは苛立ちから思わず爪を噛んだ。

―――違う。この男の恨みの底はこれではない。今のアイギアロスはこの男にとって、最早大事な故郷ではないのだ。

 痺れを切らしたリャンは、シリウスの命令を待たずに早々に幕を引こうとした。期待外れと言わんばかりの声色だ。

「罪を認めたのであれば、貴殿が罪人であることは変わりあるまい」

 リャンの脅しにもディックは自嘲気味に笑って流す。

「次は私が牢に繋がれる番ということですか。ではもうお話することもないでしょう」

「待て、まだ話は………」

 席を離れようとするディックは、シリウスの制止も聞かずに立ち去ろうとする。

しかし、今まで沈黙を貫いていたオスカーが初めて口を開き、彼の歩みを止めた。

「大司祭を毒殺したのも、本当にあなた何ですか? 無実な彼をどうして―――」

「…………大司祭が、無実?」

 オスカーの言葉に、ディックは唸るような低い声で問い返した。

「———っ」

ディックの表情にシリウスは背筋が凍った。一瞬硬直したと思えば、ディックの口元がひん曲がり、わなわなと体を震わせた。今までに見たことのない表情は、悠長に構えていたリャンでさえも息を呑んだ。

「カールハインツ! あの男は大司祭に相応しいはずがない! 傲慢で利己的! 奴こそがこの王国の病そのものだ!」

ディックの気迫に一瞬驚いた様子だったが、たじろぎもせずに言葉を紡ぐオスカーの違和感にシリウスは気が付いた。額に滲む汗と爪が食い込む程に強く握った拳。

―――オスカー、まさかまた………。心臓が痛くなっているんじゃないか。

 本当に苦しいなら、立っていられずはずがない。しかしオスカーはそれを気取られまいと耐えている。ここで自分が言及してはいけないとシリウスは踏みとどまった。

 視線に気が付いたオスカーは、シリウスに力強く頷いた。

―――これは、私の役目だ。

 シリウスは少し目を瞑り、息を吸った。そして前を見据えて再び問うた。

「カールハインツ。あの男は貴殿にとっての何だ?」

 ディックは途端、頭を掻きむしった。

「何が死者を嘆いた敬虔や信徒だ! 娘を見殺しにしたあの御者が………」

「———娘?」

 確かに大司祭の前職は御者だと聞いていた。乗客の死を嘆いて聖職者の道を選んだのだと。その乗客が、レイニー・ディックの実の娘だったというのか。

 それどころか、娘がいた事実など知りもしなかった。

「何故それを今まで黙っていた?」

「———何故?」

 怒りと苦しみと狂気に囚われたディックは、声を震わせて答えた。

「それをあなたが訊きますか、陛下。沈黙の理由などただ一つ。王家が作った歴史がそうさせたからですよ」

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