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かつての祈りはいつかの君へ~狂王と呼ばれた少女~  作者: 白野大兎
女王が下す裁断
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第107話 真実の告白(3)

「———私たちを陥れ、暗殺を計画したのは貴殿だな、レイニー・ディック候」

 ガゼボの中に、秋の風が通り過ぎていく。

 シリウスの金の瞳にはまだ、目の前に座る男がまだ忠臣に映ってしまう。

 しかしここで揺らいではいけない。シリウスは再び向き直った。

―――皆に真実を伝えた時のオスカーも、同じ気持ちだったんだろうか。

 苦悶した末に出したシリウスの答えに、レイニー・ディックはくすりと笑った。

「面白い冗談ですな、陛下」

 少女が作った妄想に付き合うかのようで、シリウスは苛立ちと共に恐怖した。

 この男がシリウスと七星卿の暗殺を計画した張本人であるならば、どうして殺意もなく平然と座っていられるのだろう。

「———冗談だと思うか?」

 そう聞き返しても男は淡々と答えるだけだ。

「先日の事件でリャン殿が主犯であると分かったばかりではないですか。彼自身もそれを認めたはずでは?」

「奴はただ残党を殺しただけで、全ての事件に関与しているわけではない。それに―――」

「失礼ですが、陛下。小評議会まで僅かしか時間がありません」

 席を立ったディックは、突如現れた男に目を丸くした。

「案ずるな、ディック候。小評議会は半刻遅らせるよう、諸侯に伝えてある」

「———リャン、殿」

黒髪黒服。怪しげな雰囲気を纏う男。足音もなく忍び寄り、いつものキセルを吹かした。

思いも寄らない男の登場に顔を引きつらせたディックは、状況をようやく理解したらしい。

「これは、どういうことですか、陛下。彼は反逆の容疑で牢に居たのでは?」

「俺がこうして外に出歩いていることが無実の証だ、ディック候」

 弁明を求め焦るディックとは正反対に、シリウスの心境はようやく落ち着き始めていた。

「首謀者を炙り出すために奴には一芝居うってもらっただけだ」

「———何を、おっしゃっているのです?」

「こうなって残念だ、ディック候」

 テオドロス、オスカーが続いてガゼボに現れた途端、ディックの表情が一層に陰りを帯びた。

「テオドロス卿。私が陛下の暗殺を計画するという確証はおありですか? 私を糾弾するのであれば、陛下ご自身の口で仰って頂きたい」

 それでも、ディックはまるで書簡に目を通すかのようにいつもの振る舞いに戻った。

 何かを諦めたかのようにすら見えるが、その落ち着きぶりにシリウスは背筋が凍った。

 リャンの目配せに気が付いたシリウスは、ディックに再び向き合った。

「朝食に毒を盛るよう、メアリー・ホーソンに命じたのは貴殿だ。彼女がそれに失敗した後、自殺に見せかけた。ホーソン家を辿り見えてきたことはアイギアロスの闇そのものだった。貴殿はそのホーソン家の事情もアイギアロスの過去も全てを利用した。違うか?」

「私がアイギアロスの出身だからですか? それでは証拠と言えますまい」

 冷酷になれと言わんばかりにリャンは促し、シリウスが躊躇っていることを見抜かれたことに恐怖した。

 兵士のフリをして剣を振った時も、ローレスを蹴り飛ばした時も感じなかった恐怖だ。

―――どうして、今になって。

 敵と対峙するよりも、味方だと思っていた者を切り捨てることがこんなにも恐ろしいことだとは思わなかった。

「———シリウス」

 案じて駆け寄ろうとしたオスカーに、シリウスははっとした。

 告げなければならない。まだ王冠も持たず、座る椅子は玉座ではなくても、自分はもう女王なのだ。

 シリウスは小さく息を吐き、心を落ち着けて切り札となる証拠を突き出した。

「———貴殿が首謀者だと証拠を集める必要などない。サンディカ・ローレスが貴殿の命令で動いたことを自白したからだ」

「…………」

 ディックは静かに目を瞑り、口を閉ざした。

「彼は全てを話した。貴殿が何年もかけて王家に復讐するために計画をしていたこと、泥ネズミが貴殿の協力を得て王都へ入ったことも、全て」

「奴は殺されていない。そう見せかけただけだ、魔術でな」

 リャンは得意げに小瓶を差し出した。そしてそれは、首謀者であるならば見覚えのあるものだ。

「貴殿はメアリーが捨てたと思った瓶の処理にまで気が回らなかったようだな。メアリーは瓶がわざと見つかるように残していた。失敗すれば助からない、せめて最後は良心に従ってと思ったのか、今となっては分からないが。貴殿の命令に最後は背き、命を落とした。彼女のことがなければ我々は分からないままだったろう」

 一陣の風が吹き、シリウスとディックの間にあった熱を攫った。

 この真相を暴かずにいれば、欺き続けたまま目の前の男は忠臣でいただろうか。

 迷いはなくとも、後悔の念ばかりがシリウスの胸の中に溜まっていく。

「———そう。もう逃げられないということですね」

 レイニー・ディックはこれまでに見たことのない晴れやかな声色で、そう呟いた。 


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