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かつての祈りはいつかの君へ~狂王と呼ばれた少女~  作者: 白野大兎
女王が下す裁断
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第105話 真実の告白

 泥ネズミが牢屋で変死してから五日。

 城も町も平穏な時間が流れた。

 カエデの葉は赤く染まり、王都の北に位置するクレマ大雪山には雪が降り始めた。

 これからフェーリーンには長い冬の備えるため、支度をする。木こりたちは町に訪れ薪を売り、狩人たちは鹿を狩る。男たちは出稼ぎから戻り、女たちは毛皮を縫う。

 ビーネンコルブ城も冬支度が始まり、穀物の貯蔵のために毎日ひっきりなしに荷馬車が城の門をくぐっていく。

 より暖かい南を目指し、燕たちが飛び去る姿を眺める一人の男が城の庭園にいた。

 こちらに近づく石畳を歩く音で、男は何者であるかすぐに察し、さっと身なりを整えた。

 来年の春にはその小さな頭に王冠を頂くことになる、未来の女王、シリウスだ。

「ディック候」

「これは、これは。陛下、ご機嫌麗しゅう」

「貴殿こそ、冴え冴えとした顔だな」

 数日前のように結わえておらず、おろしたままの髪。剣の稽古のために着替えたばかりの衣服。また少年のような姿に戻っており、どうやらその着替えを彼女の中で楽しみの一つとして見出したらしい。

「ようやく王都が穏やかになったのです。後は次の春に陛下の戴冠を終えれば、私の外務大臣としての役目もひと段落つくというものですから」

「貴殿とは一度話しておきたいことがあった。今少し時間を貰えないか?」

「陛下のご命令であればお断りすることはできますまい。小評議会が始まるまでのお時間でしたら、是非に」

 男は恭しくお辞儀をした。



 庭園の中にあるガゼボ。

 水の流れと小鳥の鳴き声が聞こえる場所。居館から離れたガゼボは、城の中でも人目に付きづらい。

 シリウスは「紅茶は不要かな」とわざとらしく尋ね、ディックはくすりと笑い遠慮した。

 先日のリャンの小評議会へ脅迫したことへの皮肉である。

問題を起こしたリャンは未だに牢に繋がれ、十日後には黒の国(アンシュー)に帰還することになっていた。七星卿としての地位を剥奪され、事実上、黒の国は王都への発言権を失くしたことになる。

 小評議会はこれに異を唱える者はおらず、有耶無耶のまま王都の事件は収束していた。

「———それで、お話とは?」

 本題を切り出したディックに、シリウスは真剣な眼差しで答えた。

「貴殿は私が女王に相応しいと本当に思うか?」

「そんな、何を今更———」

 ディックの困惑した表情にシリウスは少なからず動揺した。しかし、それを相手に悟らせないよう、シリウスは呑み込んだ。

「陛下。陛下の若さで玉座を恐れるのはよく分かります。ですが、陛下には頼もしい臣下たちが付いておいでです。私も微力ながらお力添えいたします」

 追い打ちをかけるようにディックは忠臣としての言葉を投げかけ、シリウスは思わず歯を食いしばった。

「私は、貴殿のその行動が忠誠故に行ったものと信じていた。だからこそ気付けなかった。知った今となっては何と言われても全てが虚構にではないかと思える」

「どういう、意味でしょうか?」

 俯いた顔を上げ、シリウスは答えた。


「———私たちを陥れ、暗殺を計画したのは貴殿だな、レイニー・ディック候」


 新たな真実が次第に暴かれていく。


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