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かつての祈りはいつかの君へ~狂王と呼ばれた少女~  作者: 白野大兎
女王が下す裁断
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第103話 審議の時間(4)

 一呼吸の間。

 誰もが声を発することができない程の張り詰めた空気が充満した。

「陛下、罪人はこれ以上、罪の服を着たくないのでしょう。でっちあげの物語に浸る愚かな狂人。しかし罪は明白。処刑は免れない。罪人が望む通り、さっさと処刑方法を決めてしまえばいい」

 冷静なリャンの意見に、諸侯たちは口々に同意の言葉を漏らした。しかしそれは、揉め事を避けるための詭弁にすぎず、真偽を熟慮することなど放棄したものだった。

「そ、その通りだ。王都を蹂躙したことに変わりはない」

「そうだ、すぐに処刑すべきだ!」

 まさか黒曜人を忘れられた者(インドーレ)と蔑む諸侯たちから賛同を得ると思っていなかったリャンは、耐えきれずに鼻で笑った。

 泥ネズミが関係している酒樽を買い付けた帳簿に名前のあった諸侯たちも声を上げたため、泥ネズミたちをこの際追及される前に切り捨ててしまおうという算段なのだろう。

「…………」

 最後の抵抗と言わんばかりにサンディカ・ローレスは口を閉ざしたままだ。

「貴様が率いる『泥ネズミ』は分かっているだけで数百人。ネズミを食わせるための資金源があるはずだ。貴様の後ろにいるのは誰だ。誰が剣を与え、ネズミを増やすように導いた?」

「…………」

「———っ、貴様らの行いで関係のない子どもまで死んだ。言え! 誰が貴様らを王都へ手引きした!」

 ここに来て初めて声を荒げたシリウスは怒りに震えていた。

 ローレスは、くつくつと喉を鳴らし、狂ったように笑い出す。

「私一人でやったことですよ、女王陛下! 勝手に悩んでそのまま無為に過ごすがいい! 王都で死んだ子どもあなたの上を通り過ぎる男たちの死に顔を見られないことが今となっては―――っ」

 シリウスはローレスの頬を蹴り上げた。少女とは思えぬ脚力から繰り出された蹴りで、ローレスは頭から床に倒れ、気絶した。

 飛び散った血はシリウスの頬と床に付着する。

 審議の間は一瞬で静まり返り、その場にいた諸侯たちの背筋を凍らせるには十分だった。

 しかしその中でも七星卿だけは平然としていることに、諸侯たちは怪訝そうに見つめるばかりだ。そしてそんな彼らをリャンとリゲル、そしてオスカーはじっと観察した。

 その中で唯一、動揺していない者を見つけ、リャンはオスカーと目を合わせるとゆっくりと頷き、リゲルと共に審議の間から姿を消した。

 倒れた罪人を見下ろすシリウスに、テオは自分のスカーフを差し出した。

「陛下」

「………ああ」

 シリウスは受け取ったスカーフで頬を拭い、淡々と告げる。

「審議は終わりだ。この男たちを牢へつなげ。処刑は五日後とする」

 蹴られずに済んだ残り四人の罪人は、恐怖で動けない。倒れて動かない首領と、幼い女王から告げられる死刑宣告に顔を青ざめていく。

 そして更にシリウスは追い詰めていく。

「この男の父親はどうやって殺された?」

「———首を落とされ、体は磔にされています、陛下」

「ならば同じように処刑しろ。罪人には死に方を選べないことを、冥土で父親に後悔させてやれ」

 合図と共に扉の前で待機していた騎士たちは罪人を連れていく。罪人の審議は終了し、女王に続き七星卿はその席を離れた、


 緊張感が続いた審議に、皆疲弊していた。

 アリスタは肩をぐるぐると回して堅苦しいのはこりごりだとわざとらしく大声で呟き、ヴェロスは一つため息を吐いただけだった。

 リゲルはシリウスの横を歩き、彼女の行動も咎めた。

「やりすぎだ。女王になる前に反逆を起こした者を許さないための脅迫だと諸侯は捉えるぞ」

「俺はもっと甚振るべきだったと思うがな」

 リゲルとは別の意味でリャンは不満げだ。

「———大丈夫? フィオーレ」

 オスカーは眩暈に襲われたフィオーレを支えて付き添った。

「ええ、すみません。ですが、見た甲斐はありました」

 フィオーレは目元を手で覆い、光を拒んだ。

「やはりあの方が、全ての首謀者だったようです」

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