第101話 審議の時間(2)
シリウスはカルマに目配せをし、カルマは頷いて扉の外へと向かった。それから、審議の間にはっきりと響くほどの声で審議開始の宣言をする。
「裁かれるべきは王都で起こったあらゆる罪。罪人をここへ」
シリウスの合図と共に、扉が開かれた。
闘技場で生き残った「泥ネズミ」五人が鎖に繋がれ、手を後ろに回され手枷をされた状態で現れた。連行したのは彼らを捕らえたテオだ。
捕らえた「泥ネズミ」は、サンディカ・ローレスを含め、若い男ばかり五人。
騎士たちは重い鎖に繋いだ泥ネズミたちを引きずり、突き出した。
「貴様に尋ねることはいくつかある」
大人でも緊張するような場面で、十歳の少女とは思えない程落ち着いた声色。大人に言わされている様子もない毅然とした態度に、審議の間の空気はより張り詰めたものになった。
「王都を脅かし、罪のない民を殺した傭兵たち。貴様が、その傭兵たち『泥ネズミ』の長に相違ないな」
五人の中で最も利発そうな顔立ちをしている青年に、シリウスは視線を合わせた。
「更には私と七星卿の暗殺を企てた。その罪を認めるか?」
傭兵如きが女王陛下を暗殺など出来るものか、と嘲笑する声が方々から聞こえた。アリスタは剣の鞘に手を置く仕草をして、リゲルは弓の弦を鳴らした。諸侯たちは威嚇には十分だろう。
「………」
シリウスの問いかけに泥ネズミの誰も答えはしない。
「貴様のことは調べがついている」
彼女の目はサンディカ・ローレスの心の機微を感じ取り、何を言えば彼が激昂するか分かっていた。
「サンディカ・ローレス。かつてアイギアロス領で騎士を務めたイリド・ローレスの息子。反逆を企てた愚かな騎士の忘れ形見、というわけか」
シリウスはわざとらしく肩肘を付いてにやりと笑う。
「———くだらない。王に逆らった故に死んだのだ、貴様の父は」
すると沈黙をしていたサンディカ・ローレスは何か切れたように飛び出した。嫌味な少女を狙おうとするが、繋がれた鎖がそれを許さない。
「———訂正しろ! 父は立派な騎士だった! それを、同じ騎士だからと、愚かな王は虐殺した! だから―――」
「だから、私の暗殺を計画したと? 貴様に向けるべき殺意は先王で、娘である私ではない。ましてそれが王都に住む人々を蹂躙する言い訳になるのか?」
知らされていない事実に審議の間が騒然とする。
「父は、処刑されるようなことなんて一つもしていない! 民を守り、領地を守るために盗賊たちと戦った! それなのに、ただアイギアロスに騎士というだけで、先王は磔にした! 分かるか、女王! 自分の家族が腐肉となり果てて、自分の父かどうかも分からない骨を拾う苦しみが。先人たちの罪で今ある自分たちがただただ奪われていくだけの日々が―――」
サンディカ・ローレスの訴えにシリウスは目を瞑った。