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かつての祈りはいつかの君へ~狂王と呼ばれた少女~  作者: 白野大兎
女王シリウスと七星卿
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第5話 謁見前の駆け引き

 王命から一か月。

 若木の芽が息吹く季節に、小国から女王の未来の臣下たちが入城した。

 各国、王命通り限られた従者だけを王都まで引き連れたが、入城前には従者は国へ返され剣や弓などの武器は預けられた。

 一日の休息の後、彼らは玉座の間で女王と謁見することになった。

 オスカーも彼らと顔を合わせることになるのはこの日が初めてだった。

 謁見の間は身分ある者しか入れることを許されない、かつてはじまりの王カノープスが自らを王であると宣言した場所であり、聖域とも呼ばれている。

 聖域とは言っても後にその上に城が建築されたために、正確な場所ではないかもしれない。しかしその場所は息を呑む美しさだ。

なめらかな乳白色の玉座は祭壇のように数段高い位置にそびえ、色鮮やかなカレイドスコープのようなステンドグラスは光を散りばめた。白い石柱と壁に囲まれ、そして荘厳かつ重厚な大扉と中央の居館に繋がる扉のみ。靴の音と囁き声が反響するほどに高く広がり、外界から隔絶されたそこはまさに聖域と呼ぶに相応しい。

空間の雰囲気も相まってオスカーはひどく緊張していた。

オスカーよりも彼らは先に玉座の前に案内され、玉座以外に座る場所もなく、彼らは立たされている。水差しも軽食も持ち込めない状態で女王の到着を半時も待たされている。

長い沈黙の中でオスカーは彼らを十分に観察できた。

―――年齢、もっとばらけるかと思っていたけど。自分とそんなに変わらないのが四人もいる。けど、親子くらい年齢が離れている人もいる。

 七人の中でも、長身でがたいもよくその佇まいで騎士であると一目でわかる。長時間立っているのにも関わらずその姿勢は崩さない。マントと紅の飛龍の紋章が施されてはいるが、質素な軽装の鎧がより騎士らしさを強調している。

紅の国(エカルラ―ト)」ココアニス家よりテオドロス・レグルス・ココアニス。

 炎のように赤い緋色の結わえた髪に、勇ましい顔立ち。曇りのないとび色の目。

 騎士はオスカーの視線に気が付いた。

「―――っ」

―――まずい。見すぎた。

 慌てるオスカーに騎士は爽やかに笑い返した。

 騎士を見ていたのはオスカーだけではない。

―――すごく睨んできているけど。え? 美少女?

青の国(セレスト)」フローライト家より、リゲル・フローライト。

 神童と名高く、彼の知識量と政治的手腕は大人も舌を巻くという。

 さらりと流れる銀髪、日焼けをしていない肌。氷薄色(アイスブル―)の目。家と名に恥じぬその容姿。濃紺と白を基調とした衣装がよく似合う。

「何を見ている」

「い、いえ」

―――声変わりしてた。やっぱり男だった。

 姫であればその美しさを讃えていくつも詩ができただろう。

 しかし氷のように冷たい眼光は星の名(リゲル)であり蛍石(フローライト)だ。

 竦むオスカーと睨むリゲルの間に、陽気な声音の青少年が割り込んだ。

「何だよ、何だよ。これから同じ城に住むんだ。どんな奴か観察するくらい構わねえだろ? なあ、フローライト家の坊ちゃんよ」

千草の国(シャルトル―ズ)」チャービル家のアリスタ・チャービル。

 キャラメル色のハット、胡桃色のくせのある髪に、ハットの影から覗く煌々と輝く若葉色の目。白いシャツに刺繍が施された派手なスカ―フ。アリスタはオスカーをちらりと見下ろした。ジェードグリーンの海賊服を肩にかけ、鎖骨が見える程に開いた肌から覗く入れ墨がある。少しばかり年上であろうその青少年のそれに、オスカーは思わず目を見張った。

「海の獣か」

 アリスタの軽薄で挑発的な態度はリゲルの癇に障ったのだろう。しかしリゲルの侮蔑的な言葉にアリスタは口角を上げた。

「そいつは俺たち海賊にとっては誉め言葉だぜ、青二才(ブル―ボ―イ)

 庇ってくれたと思ったが、そうではない。挑発を横取りしただけだ。

「わかんねえやつだな。女王に決めてもらうまでもない。七人同時に集めたのはそれが理由だ。俺は剣がなくても構わねぇぜ、坊ちゃん」

「よせ、ここは玉座の前だぞ。私闘は禁じられている」

 テオドロスがリゲルとアリスタの間に割って入るが、二人は折れない。

「口をはさむな」

青二才(ブル―ボ―イ)の言う通りだぜ。怒るなよ、飛龍の騎士(ドラゴアニス・ナイト)。剣がないあんたの脅しは牙を抜かれて翼をなくしたドラゴンだぜ。玉座は一つ。エサと宝を目の前にしちゃあ、海の獣は我慢できない。つまりこれは、椅子取りゲ―ム。俺たち七人で競い合えって言っているようなもんだ」

 一触即発。その張り詰めた空気を、騎士が力づくで止めようと踏み込んだ瞬間だ。

「それはいけません」

 柔らかく溶け込むその声は、決して大きく響くわけではないが、その場にいる全員が一度に目を向けた。


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