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第96話 逡巡


「おいおい、ネズミが湧いて出て来たぞ!」

先走っていたアリスタはすぐに逃げ戻った。

例え無敵の飛龍の騎士が率いている騎士でも、このままでは数で押されてしまう。騎士たちはじりじりと、シリウスを中心に円を描きながら後退していく。

 再び降る矢の雨に、騎士たちは盾を上に向けてシリウスたちを守ったが、弓兵がまだいる以上、盾を無駄にすることになる。

 オスカーは倒れた傭兵の背にある矢筒が目に飛び込んだ。

―――どうする?

 オスカーは一瞬のうちに逡巡した。囲まれたままでは制圧どころか逃げることもままならない。

遠くから狙う敵を打てるのは、こちらには一人しかいない。オスカーは意を決し、騎士たちの足をすり抜けて這いつくばって矢筒を傭兵の背中から脱がせた。その隙を逃さず襲いかかる傭兵に、カルマが飛びかかり間一髪で転ばせた。

「オスカー!」

「———っ」

 一瞬の震えを、オスカーは呑み込んだ。そして傭兵の腰にもう一本携える剣を抜いて心臓に突き刺し、己の行為に血の気が引いて立ち尽くすオスカーにカルマはすかさず引っ張り、騎士たちの包囲の中に戻した。

「何してるんだよ!」

 カルマは半泣きになりながらオスカーに怒るが、それを無視してオスカーは拾った矢筒をリゲルに渡した。

「お前、このためにわざわざ」

 リゲルは信じ難いと目を丸くした。

「リゲル、頼める?」

 この短い信頼の言葉に、リゲルの薄氷色の目は揺らぐことなくオスカーの言わんことすることを読み取った。

「お前に言われるまでもない」

不適に笑ったリゲルは海飛竜(ディーズダート)の骨で作られた弓で矢をつがえ、唱えた。

―――穿て(ガラザ)

 風の魔術を纏った矢は、遠くにいる弓兵の心臓を捕らえ、鎧をも貫通して地面に突き刺さった。

「それができるなら最初からやれよ!」

「何だその言い方は」

「お前に言い方云々言われたくないね!」

 アリスタとリゲルの目線が敵ではなくて互いに向いている。

「「ここで喧嘩しないで、二人とも!」」

 オスカーとカルマはアリスタとリゲルの間に割って入った。

「少し下がってろ」

―――焼き尽くせ(グラリオサール)

同時にヴェロスは膝をつき地に剣を刺し、火の魔術を唱えた。剣先からこぼれた炎の雫は蛇のように地面を走っていく。

隙を与えぬ攻撃の連続に、傭兵たちは近づけずに二の足を踏み後退していく。


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