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第92話 観客席

 振りかざした大剣を間一髪でかわし、ヴェロスは宙に翻った。

 高貴な身分の者だけが座る観客席で、オスカーとカルマは座っていられなくなった。

「ヴェロス、どうして魔術を使わないんだよ」

 苦戦するヴェロスにカルマはヤキモキしている。オスカーはカルマに声を落とすように耳打ちした。

「魔術を使ったら折角隠した素性がバレちゃうでしょ」

 特にヴェロスは希少な火の魔術を使う。泥ネズミがこの闘技場に入り込んでいれば、彼の魔術を見て正体を突き止めるのに時間はかからないはずだ。ヴェロスもそれを分かっていて魔術は万が一の時しか使わないのだろう。

―――相手の子すごく速い。あんな大剣を振り回して。それに、気のせいかな、ヴェロスの動きをまるで先読みしているみたいに見える。

「…………」

 オスカーだけではない。

 観客全員が彼らの剣技の虜になるのが分かる。息を呑み、魅せられていく。

 口元まで顔を隠しているシリウスもじっとその光景を見ていた。女王の傍に立ち、一応は護衛役を任されたオスカーとカルマだが、狙ってくれと言わんばかりの位置にいるシリウスに、苦戦しているヴェロス。観客席に闘技場にとオスカーは気が気でなかった。テオが回した騎士が数名囲んではいるものの、いつ背後から音もなく狙われるのか、その恐怖で冷や汗が背中を伝っていく。これまではまともに試合を見ることは出来なかったが、決勝戦だけは違う。

 ヴェロスの剣技を見たことがないわけではなかったが、これまで快勝を続けた彼の闘いは手加減をしていたことがよく分かる。大剣を振るう異形の強敵を前にして、彼の洗練された剣技が冴え冴えとしているのだ。ヴェロスの危機を感じて、ではなく、両者から目を離すことができない。

 城からここに来るまでシリウスは大人しく、高貴な淑女らしく声を発さずに、彼らの闘いを凝視していた。声を上げないのは感心だが、シリウスらしくない。お喋りというわけではないが、何も話さないのは違和感しかない。体の調子が悪いわけでもないようで、オスカーは張り詰めた空気を纏ったシリウスに、闘技場に入ってから声を掛けられなかった。


 彼女の目には一体何が映っているのだろう。

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