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ひまわり

作者: はるかぜ


“ただ別に何の気もなかったのだけれど、文字遊びが好きな人間の私は、ただ別に何の気もなかったのだけれど、ゆえにこの手紙を書いたというわけです。”



 晴れた空が心地よい6月の終わりに、僕はこの手紙を受け取った。

 差出人の名はいつものあの子で、全く嫌気が差してしまった。

 これではせっかくの快晴も台無しだ。

 続きを読むと、



“あなたはどこにいるのでしょう。この地平の続く限り、私とあなたは同一の地の上にいるということです。私はそれが嬉しいのです。”



 果たして本当にそうだろうか?

 彼女の考え方は非常に突飛で、地に足がついておらず、今、彼女が火星、いや木星からどうにかこうにかこの手紙を送ったのだと言われても、何ら不思議には思わないだろう。むしろその方が自然と思われた。

 そのくらい彼女はぶっ飛んでいて、地球にいるのが似合わないのである。



“ところで、”



 一体何だというのだ。



“私の庭にひまわりを植えたのですが、全く芽が出ません。あなたの庭に植えてくださいませんか?種を送ります。”



 白い封筒を逆さにすると、干からびたひまわりの種が3つ手のひらに転がり落ちた。

 彼女にはこういうところがある。

 いや、こういうところしか無いのか。

 庭にひまわりの種を植え、毎日毎日甲斐甲斐しく水をやり、肥料をやり、様子を見るが、6月の終わりになっても芽が出ないので、僕のところへ送ろうと画策した。

 そういう人なのだ。

 言い表せないが、そういう人なのだ。


 掘り出したとき、彼女は一体何を思っただろう?

 悲しかっただろうか。

 僕ならうまく育ててくれるだろうと期待しただろうか。

 悔しかっただろうか。

 それともこれは本当にひまわりの種なのだろうか?

 様々な疑問が頭をよぎったが、僕は素直に種を植えることにした。



 あれからひとつきが過ぎた。


 ひまわりは立派に育った。


 それは立派すぎる程に。


 あれから彼女からの便りは一度もない。


 毎週のようにあった手紙がなくなるとこうも寂しいものなのかと思った。


 この種を受け取ったときに感じたうざったさとめんどくささに後になって罪悪感を抱いた。




 ひまわりを世話する間、僕は何度も彼女を思った。

 うつむいた瞳。

 長いまつげ。

 思慮深そうに笑う顔。

 思い出されるのは全て、彼女の姿と美しい思い出ばかりだった。

 そういう作戦なのかもしれない。

 きっと今回も彼女は上手くやったのだ。

 大輪のひまわりが風に揺れる。



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