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第七章 ニャンコの手はタダでは貸さないのだ(適正価格でご提供するのだ)
《聖主》様は《唯一神》の地上における代理人とされ、《龍首の半島》の西岸中部に位置する《聖都》がその御座所である。
お住まいになるのは《大法宮》で、《帝国》の《皇帝》が住まう《帝宮》に劣らぬ豪華な宮殿らしいけど、ボクはどちらもまだ見たことがない。
《帝都》はいずれ訪れる機会があるとしても《聖都》は《獣人》には縁遠く、きっと死ぬまで《大法宮》を見ることはないだろう。
信徒を集めての祭礼は《聖都大聖堂》で行なわれ、《大法宮》は一般人の立ち入りを許さない。
《大法宮》は《聖主》様が日々の生活を送る私的な空間であると同時に、《律法官》が集められて《唯一神》教団にまつわる様々な宗教的または政治的な決定が下される場なのである。
そしてその決定に従い実務を取り仕切るのが《聖庁》で、聖職者ばかりでなく俗人の事務官も多数擁した官僚機構であった。
《聖庁》軍は、その下に置かれた軍隊ということになる。
聖人である《聖主》様は自ら戦争の当事者となることはない。《大帝領》や《首長国》という異教徒と戦う場合も、政治的な理由で《聖都》周辺の貴族領主や自治都市と争うときも、主体は常に《聖庁》である。
《聖主》様の手は決して汚れることはない。勝利は《唯一神》の恩寵とされる一方、悲惨な敗北から屈辱的な条件の和平を結ぶことがあっても責めは全て《聖庁》が負うのだ。
戦争の始まりは「神意」という名目で《大法宮》の中で決められるのにもかかわらず、である。