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第五章 ニャンコは夜行性で当たり前なのだ(朝寝坊は怠惰ではなく習性なのだ)
《中の海》を取り巻く四大国のうち最も広い国土を有するのは《帝国》である。
その面積は《王国》に倍するほど。しかし大半は寒冷地であって農業生産力が低く、国民の多くは貧しくて経済の発展が遅れ、実際の国力は《王国》や他の二大国──《大帝領》と《首長国》──と大差がない。
国土の東方には《大森林》が広がる。そこには森ばかりではなく山脈と大河が縞模様を描くように繰り返し連なり、旅人の行く手を阻む。その向こう側にある《大帝領》との陸路での往来は困難が伴う。
南は《中の海》に向かって《龍首の半島》が突き出しているけど、それは建前上は《聖主》様の領土、実際には貴族領主や自治都市が割拠しており、いずれにしろ《帝国》領ではない。
そして《龍首の半島》の東西の《帝国》領には良港がない。東は海岸線の間近まで山が迫る地形で、西は海から切り立った崖が連なり、いずれも港が発展する余地がない。そのため《大帝領》や《首長国》との海路での往来も不便である。
ゆえに《帝国》は、貧しく飢えた民に与える生贄として《王国》を選んだ。
腹を満たすにも富を得るにも、そのほかあらゆる欲望を充足するにも《王国》から奪うこととしたのだ。
《帝国》と《王国》は幾度となく衝突し、しかし国力差がないため互いに疲弊して停戦することを繰り返してきた。
いまは停戦が成立したばかりだ。
しかしこれまでも停戦の約定は何度も結ばれ、そして破られてきたのである。