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第一話 私は異世界へと行きます。

朝霧が先を見えなくする朝。



それでも何十年と走りなれた道を私の足は迷わずに走ってくれる。

間接の痛みにも、ここ数年で慣れた。

川を越えてしばらく走り、階段を上って山の上にある神社の境内へとたどり着く。


しばらく前から、朝の日課のランニングは参拝へと変わっていた。




(孫の病気が、良くなりますよう……)

手を叩き合わせ、お辞儀をするといっそう強くそう思いを込めた。


今日で孫が倒れてから二年が経った。

原因は今だ分からず、目を覚ますことのない孫は目に見えて痩せてしまった。

こんな爺よりも。

息子夫婦たちは今日も一日中隣に着いてやるそうだ。



二年前、仕事と遊びに全力だった私の元への一本の電話。

冷静な息子の悲しげな声を今でも覚えている。

携帯を持たない私が、その電話を取ったのは場末の雀荘だったのだ。



今年で二年、その数字を思い浮かべると堪えきれなくなる。

神様、あぁ神様っ、この老いぼれにできることなら何でもしましょう。

だから、どうか孫を救ってください。

どんなに強く願っただろうか、朝霧が晴れ境内に光が指す。

(…また、明日参らせていただきます。)


そう心の中で唱え踵を返して山を降りる石段を下りていく。


その途中であった。



足を滑らせたのだ。


下まではまだ長い。

頭をぶつけたのか視界が真っ赤に歪んでいく。

様々な考えが巡るがもし、叶うなら。

(あぁ、神様 どうかこの爺の命一つ 孫の為に取ってくだされ…!)

だから…!

そこで私の思考は途切れた。






私が目を覚ますとそこは深い森のようだった。

(森の中にでも転がり落ちたのか…?)


頭は妙に冴えている、体は綿のように軽い。

まるで油を差したように、体の間接からは痛みが引いていた。



周りを見渡してみても知っている景色でないことは簡単に分かった。

背中を落ちる水滴だけが妙に現実味を帯びているのだ。



「誰か!誰かいないのか!」


声を上げてみるが深く、暗い森の中に声は響かない。

堪らず走り出したその足は、まるで私の足ではないようだった。

しかしその走り心地は懐かしい。


確信した事が一つ、こんな方法で分かるとは自分らしい とつくづく思う。


私の体は若返っていた。


見ると手に刻まれていた古木のようなシワは下ろし立てのスーツのように張りを取り戻し、目に見える木々の色は深く、頭は走りながらも

避けるべき危機を察知している。

倒木がある、肌を切りそうな枝だ。

そしてそれらを見る度に私は私の知る世界ではない場所に来た事を認識していく。



(もしや、ここが死後の世界なのか?)



もし死後の世界であるならばこれからどうすれば?

そんな事を考えていると森が途切れる場所が見えた。

その先には人影もある。


(良かった!人が居るとは助かった!)


私の足取りはいっそう軽ものへと変わった。




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