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第7話 見知らぬ妹

『こりゃまた派手にやられた様だな』



白い空間、謎の少女の声……またあの場所に来た様だった。



不思議と意識は鮮明、まるで現実の世界の様にはっきりとして居た。



「武術の心得も無いのにあんな化け物と戦える訳ないだろ」



『まぁそれもそうか……それより貴女のパワー、中々いいじゃん』



そう言い可愛らしい笑顔を浮かべる少女、この空間に疑問は尽きない……だが今は彼女と会話をして情報を引き出したほうが良さそうだった。



「そう言うものなのか?周りの武姫とあまり出会って居ないから力がどの程度なのか平均がわからないよ」



『その内嫌でも会えるさ』



「その言い草だと会いたくないみたいだな」



その言葉に何も言わずに背を向ける少女、ここは何処で彼女が何者なのか全くヒントすら得られない、試しに頬をツネって見るが痛みは無い……夢の中なのだろうか。



だが自分の知っている夢とは少し違う……やはり何も分からなかった。



『出来れば会いたく無いものだな』



そう言い背を向ける少女、背中は徐々に遠退いていく……そんな中、忍は彼女の言葉が何処か寂しい様な気がして居た。



やがて夢から覚める様に忍は自室のベットで目を覚ます、ゆっくりと起き上がり身体を見るが包帯は巻いてあるものの、痛みは全く無かった。



ルシャナから受けた酷い火傷や裂傷を考えると完治するのに数ヶ月は居る……だが体感でも1日やそこらしか経っていない筈、少し妙だった。



包帯を取り傷跡を見るが綺麗に治っている、武姫とは傷の治りも早いのだろうか。



「姉様、おはよう」



「あぁ、おはよう」



試しに爪で皮膚を切って見る、だが傷口からは血が少し溢れ治る気配はない……不思議だった。



「ん……?待てよ、誰だお前!?」



傷の謎に気を取られ無意識に声へ反応していた事に気がつく、此処は自分の部屋……妹も此処に居るはずがない……ならば姉様と呼んだ声は誰なのか、急に怖くなり血の気が引いた。



「クルシュだよ姉様、忘れたの?」



「あぁ、クルシュか……ってならねぇよ!誰だよ!」



紅茶の入ったティーカップを二つ持ちキッチンから姿を現わすクルシュに思わずノリツッコミをする、金髪ショートの綺麗な髪に長いまつ毛、整った顔立ち……姉様と言われてもこんな少女微塵も知らなかった。



そもそも女になったのは数日前……恐らく彼女の姉と自分の容姿が似て居るのだろう。



「姉様の好きなセンブリ茶、淹れましたよ?」



「セン……ブリ茶?」



聞いたことの無い銘柄に首を傾げる、クルシュからティーカップを受け取ると匂いを嗅いで見るが特段臭くもなく、少し渋い匂いだった。



ゆっくりとティーカップを口に近づける、カップの縁に唇が当たりセンブリ茶が少しだけ唇を濡らす、そして口を開き流し込むと少し口に含み舌で味を確かめた。



味を確かめた瞬間、思わずむせ返りそうになる、だが何とか吐き出すのを堪えるとセンブリ茶を飲み込んだ。



「姉様?」



心配そうに顔を覗き込むクルシュ、忍はあまりの苦さに驚きで目が点になって居た。



常軌を逸した苦味、緑茶や麦茶などしか飲んだ事が無い忍からすれば体験した事の無い衝撃的な苦さだった。



16年の人生で例える苦さが無いほどの苦味……少し涙すら出る程だった。



「クルシュ……」



口を押さえながら忍は冷蔵庫を指差す、昨日作ったパックの緑茶が入っている筈……この苦味は水でどうにか出来るレベルでは無かった。



クルシュに忍のジェスチャーが伝わったのか頷くと冷蔵庫を開けてお茶が1リットル程入っている容器を取り出しコップに注ぐ、そして少しだけ急いでいる程を装い忍に手渡した。



「たふかる」



あまりの苦さに舌が回らない、だがそんな事は気にもせずコップ一杯に注がれたお茶を全てを飲み干そうと口の中に大量のお茶を流し込む、流れ込むお茶、舌に触れ数秒したその瞬間、忍に電撃が走った。



センブリ茶の時と同じ苦味が忍を襲う……そして次の瞬間、お茶を口の中に留めておく事が出来ずまるで噴水の様に吐き出していた。



「苦っがぁぁ!!!」



口から吐き出されるセンブリ茶が部屋の照明に照らされ煌めく……そして水滴は全てクルシュへと雨の様に降りかかった。



「あ……」



センブリ茶と若干の唾液が混ざる雨に濡れて行くクルシュを見て忍は我に帰る、彼女は小刻みに震えていた。



確実に怒っている、ブチ切れる寸前……かと思いきやクルシュの顔を覗き込むと頬を赤らめ嬉しそうな表情をしていた。



「姉様の……ふふ、ふふふ」



突然立ち上がると不敵な笑みを浮かべる、何が嬉しいのかよく分からないが取り敢えず怖かった。



「そう言えばクルシュは何で部屋に居るんだ?」



ベットの下にある引き出しからタオルを取り出し渡す忍、その言葉に本来の目的を思い出したかの様に手を叩いた。



「そうでした、ルシャナさんから姉様の看病を頼まれて」



「そうだったのか……なんか悪いな」



「良いんです、姉様の為ですから」



タオルを受け取り忍の言葉に微笑むクルシュ、少なくとも危ない奴じゃ無いのは分かったが……一つ、ずっと気になっている事があった。



「なぁ、さっきから姉様って何の事なんだ?」



「あ、それは……」



忍の問いに歯切れが悪くなるクルシュ、何か訳ありの様子だった。



「別に話さなくても良いよ、それより看病ありがとう」



「は、はい」



クルシュに礼を言うと忍はベットから立ち上がり洗面所へと向かう、風呂のシャワーを出し扉を閉めると脱衣所でもある洗面所でパジャマを脱ぎ包帯を外す、そして湯気が立ち込める風呂場に入ると頭からシャワーを浴びた。



鏡で身体を見回して見るが傷は綺麗さっぱり消えて居る、痛みも無ければ疲労も無い……不思議な体だった。



だが痛みや疲労は無くとも……恐怖はしっかりと残っていた。



剣が腕に食い込んでいく痛み、死ぬかも知れないと言う恐怖……あの時自分は手も足も出なかった……武姫になれば自然と強くなり無双出来ると思い込んでいたがそれは幻想、現実は惨めなものだった。



「姉様?大丈夫ですか?」



扉の向こう側からクルシュの心配する声が聞こえる、長い事シャワーを浴びて居た様だった。



「大丈夫、すぐ出るよ」



クルシュにそう伝えると忍はシャンプーで頭を洗う、魔女と武姫……ラゲリックの話しではとても隠蔽できる程の歴史では無かった……だがその歴史を知らずに俺は16まで生きて来た……まだこの組織は何か隠して居る、そんな気がした。



ラゲリックと言い怪しさ満点……正直同じ武姫と言えど誰を信用して良いのか分からなかった。



ルシャナに殺されかけたのだから当然の考え、クルシュも隙を見せれば攻撃してくるかも知れない……心は休まらなかった。



蛇口をひねりシャワーを止めると風呂場の扉を開ける、視界を妨げる髪を掻き分け顔を上げると目の前にはクルシュがバスタオルを持って待機して居た。



「うわっ!?」



何食わぬ顔で洗面所に居るクルシュに忍は思わず足を滑らす、すると次の瞬間クルシュの腕が忍の腰を支えた。



「危ないですよ姉様」



そう言いバスタオルで大事な所を隠すと微笑むクルシュ、イケメン過ぎて惚れそうだった。



「あ、ありがとう」



「姉様が無事ならそれで良いですよ、それより学校……始まりますよ」



その言葉を残しクルシュは洗面所を後にする、彼女も恐らく武姫なのだろうがルシャナの様な危険な感じはしなかった。



忍は下着を着けバスタオルを首から下げリビングへ戻ると新たに新調された制服に着替える、新たな学園生活……楽しみだった。



「それじゃあ、行きますよ」



着替え終わった忍を見るとクルシュは靴を履き玄関の扉を開ける、忍は無言で頷くと玄関を出て扉を閉めた。

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