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第6話 虚勢

右腕から流れる滝の様な血、尋常では無い程に熱い……痛い、気絶しそうだった。



目の前で剣を鞘に収めゴミでも見る様な視線を送るルシャナ、石で作られたステージの脇ではラゲリックが何食わぬ顔でその光景を眺めて居た。



俺は……武姫に幻想を抱いて居た、ラノベの様にチートな力を手に入れたと思って居た……だがそれは間違い、俺は強くなんてなって居なかった。



その証拠がこのざま、右腕は切り裂かれ動かない、肋骨も折られ肺に刺さっているのか吐血が止まらない……ルシャナの『浮かれた気分も今だけ』の意味がやっと今分かった。



遡る事数十分前、俺は海上に浮かぶ都市に興奮して居た。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「スッゲー!!此れが海の上?!」



エレベーターから降り目の前に広がる信じ難い光景に忍は子供の様にはしゃぐ、目の前に広がる景色はまるで東京の街並みの様だった。



服屋があり、カフェがあり、ゲームセンターがある……武姫に人権が無いなんて信じられない程に充実して居た。



「この街は教職員の方や研究者、そして勿論武姫の子達が息抜きする為に作られたんだ」



「お、おぉ……」



女性に向けて作られた街並みではあるが高校生の様な生活は出来ないと腹を括っていた忍からすれば何ら気にならなかった。



「まぁこの街よりも今は……こっちだよ」



そう言いラゲリックは忍を手招きして街を南に歩いて行く、中心街から遠ざかるにつれて店は無くなり、やがてフェンスに囲まれた黒い建物の前に着いた。



「此処は?」



「入れば分かるよ」



忍の質問に答えず微笑むと体育館程度の建物の鍵を開け中に入って行く、忍も後ろを付いて入るがなんの変哲も無い石で作られたステージが中心にある程度だった。



「じゃあ、あのステージに行ってくれるかな?」



「え?はぁ……」



ラゲリックの言葉に従い階段を上がってステージの上に登る、するといつの間にか姿を消して居たルシャナが突然ステージに現れた。



その瞬間……忍は嫌な予感がした。



「戦場ではあり得ないけど……一声だけ掛けてあげる、今から貴女を殺す」



そう言い何処から出現させたのか剣を片手に持ちあっという間に距離を詰めるルシャナ、戦闘経験無しの素人でも分かる程の凄まじい殺気……彼女は本気だった。



「な、なんで?!」



意味の分からない行為に行動が遅れる、逃げるタイミングを失った忍を見てルシャナは剣を振りかざした、咄嗟に右腕を出しガードする、だが尋常では無い痛みが右腕に走った。



「痛っつっ!!?」



経験した事の無い痛み……剣で切られるなどあり得ないのだから当たり前なのだが耐え難い痛みだった。



ラノベやアニメを良く見ていると堪えて戦うと言ったシーンが良くあるがそれ何処では無い……意識が飛びそうだった。



「何でこんな事……」



「何故……それは簡単です、貴女が使える武姫か使えない武姫か……それを選別する為の試験ですよ」



そう言い満面の笑みを浮かべるラゲリック、やはりとんだマッドサイエンティストの様だった。



とは言えこの流れも予想出来ない事態では無い、人権が無いと言われて居たのだから何をされようが文句は言えない……たとえ殺されようとも。



「武姫なのに武器すら出せず死ぬ、哀れね」



腕を両足で抑えつけ忍に跨るルシャナ、身動きが取れなかった。



武器の出し方を教えてくれる優しさも無ければピンチで覚醒なんても事も無い様子……どう見ても詰みだった。



「それじゃあ……短い付き合いだったけど、サヨナラ」



そう言い剣を振りかざす、辺りに響き渡る金属音……剣は忍のツインテールの片割れを切り落として居た。



「こういう時は……心臓狙うのが定石じゃ無いか?」



「くっ……」



辛うじて動く首を数センチ横にずらし何とか危機は一先ず回避した……だが危機的状況に変わりは無かった。



膝で背中を蹴るがビクともしない、死にたく無かった。



こんな美少女になれたにも関わらず何もせず死ぬなんて勿体ない……泥臭くても生きたかった。



「俺から……離れろ!!!!」



まるで雄叫びの様に忍は吼えると上に乗って居たルシャナを吹き飛ばす、その光景に彼女は勿論、ラゲリックも驚いて居た。



「これは驚いた……まさかこれ程パワーが強いとは」



ラゲリックの声が聞こえる……今の力は何だったのだろうか。



医者から聞いた話で確か身体能力が五倍程に跳ね上がると言っていた……それのお陰で助かったのだろうか。



だが……何はともあれ、形成逆転、反撃のチャンスだった。



拳を構え反撃に出ようと顔を上げる、だが目の前には灼炎に身を包んだルシャナが立って居た。



「あ、あっつ……」



10メートルは離れているが火傷しそうな程の熱気だった。



「本気で相手してあげるわ」



そう言い炎を吐き出し続ける剣を構え忍を睨み付けるルシャナ、勘弁して欲しかった。



俺は武器も出せなければ特殊な力も無いと言うのに……対するルシャナは化け物じみた強さ……未だに姿を捉える事すら出来ないのにどう勝てと言うのだろうか。



「必死に足掻く事ね」



ルシャナは言い捨てると剣から炎を飛ばす、やがてそれは鳥へと変化し、忍へと襲い掛かった。



「はや……い」



予想以上のスピードに困惑する、二つ躱すも右腕に炎は直撃、燃える様な熱さが忍を襲った。



だが斬られた痛みに比べれば我慢は効く、意識は途切らせず集中を続けた。



「じゃあこれはどうかしら!!」



そう言いルシャナは纏って居た炎をビームの様に飛ばす、スピードは先程の比にならない程速く、忍の肩や腹、足を貫いた。



「反撃……しないのかしら?」



クスクスと笑い挑発する様に尋ねるルシャナ、ドSな奴だった。



「俺は……女は殴らない主義でな」



そう言い倒れこむ忍、膝で蹴って居たがあれは……特例だ。



海賊漫画に出てくるコックの様なイカした台詞を言い捨て倒れる忍、その姿にルシャナの炎は収まって行った。



「な、何が女は殴らないよ、それだけボロボロで馬鹿じゃない!?」



何やら怒っている様子……だが熱さを感じないという事は助かったのだろうか。



「合格だね……すぐ治療してあげるから心配しないで」



ラゲリックの声が聞こえる……合格、その言葉に忍は安堵すると意識を失った。

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