第4話 新たな美少女
「う、うーん」
洗面台の前で唸り声を上げ鏡とにらめっこをする忍、右手に握られた輪ゴムを髪につけ見るがどうも何かが違った。
三つ編み、団子、ポニーテール……様々な髪型を試した髪の毛はボサボサになって居た。
「ネットの記事を参考にしたけど……わかんねぇな」
左手に持たれたスマホで髪の毛の結び方を調べるが何度挑戦しても不恰好な結び方になる……せっかく美少女になれたのだから可愛い髪型にしたかったのだが……自身の不器用さを恨んだ。
「だが……スマホが使えるのは意外だな」
完全に外部と遮断されて居るのかと思ったが意外にもスマホは使える、ただネット記事なども見れるが一方的に情報を知れるだけでこちらから何かを発信する事はできなかった。
電話も一応あるが掛けても繋がらない……とは言えある程度暇つぶしには使えそうだった。
歯を磨き顔を洗うと忍は大きく欠伸をする、現在の時刻は8時42分、まだ眠たかった。
扉のドアを開けようと試みるがやはり開かない、もう一眠りしようと扉に背を向けたその時、ノックする音が聞こえた。
「失礼するよ」
その声と共に扉が開く、扉の向こうには昨日のマッドサイエンティスト風な男が昨日と全く同じ笑顔で立って居た。
一つ、違う点と言えば後ろに一人、美女を連れて居ると言う事だった。
赤く伸びた綺麗な長い髪、少し性格のキツそうな目付きをして居るが俺に負けず劣らずの美少女だった。
「昨日はよく眠れたかな?」
少女に気を取られ完全に存在を忘れて居た男が口を開く、よく寝れた……その問い掛けは愚問だった。
「昨日あんな事言われたら寝れる訳無いだろ」
少し不機嫌そうに言う忍の言葉に男は笑った。
「まぁ……そうだね、それよりこの服に着替えてくれるかな?」
「服?」
男から受け取った服を広げて見るが至って普通の制服だった。
「取り敢えず着替えたら教えて、外で待ってるから」
そう言い男は扉を閉める、忍は少し違和感を感じながらも服をベッドの上に置くと寝巻きを脱いだ。
ワイシャツを着ようと手を伸ばすがその時、ある物が視界の端っこに入って来た。
女性用下着……忍の手はワイシャツを手に取るのをやめ、下着の方へと伸びて言った。
「こ、これが女性用下着……」
配布されたパンツを手に取り眺める、何故縞パンなのかは分からないが……少し興味があった。
別に男の時は観賞用としてしか興味は無かったが女子となった今、とてつもなく履いて見たかった。
パンツを手に持つとゆっくり足を上げ穴に足を通して行く、そしてそれは来るべき所に来ると何とも言えないフィット感が訪れた。
「これがパンツ……」
男の時に履いて居たボクサーパンツと違い、伸縮性があり機動力もありそうだった。
ふとブラジャーに視線を向ける、忍はブラを手に取ると胸に当てて見るが付け方がさっぱり分からなかった。
それも当たり前、元々は男……知って居るのはそう言う趣味の奴ぐらいだった。
「これ……一人で付けれるのか?」
留め具の様なものを後ろで止めようとするが手が回らず苦戦する、そして時間が経つに連れて忍のイライラが溜まって行った。
「なんだよこれ!めんどくさ過ぎだろ!」
「貴女ブラジャー着けたことないの?」
発狂してブラを放り投げたその瞬間、背後から聞こえて来ると声に忍は固まった。
恐る恐る背後を振り返る、そこにはいつ入って来たのか、先程のキツそうな印象を受けた赤髪の綺麗な少女が立って居た。
「えーっと、誰ですか?」
「私はルシャナよ」
「ルシャナ……さん?」
明らかに日本人の名前では無かった、髪色から察するに海外の生まれなのだろうか……だが顔は日本系統、名前だけではよく分からなかった。
「それより貴女、ブラ着けた事ない見たいだけど、手伝ってあげようかしら?」
そう言い投げられたブラを拾い上げるルシャナ、断る理由は無かった。
「じゃあ……頼む」
「良いわよ、別に」
そう言いルシャナは背中側に回るといとも簡単にブラを付ける、まさに早業……流石本物の女性だった。
「早くしなさいよ、博士も待ってるから」
「博士?」
「玄関に居た人よ、Dr.ラゲリック、私達武姫を調べてる人よ」
「へーって……ん?」
ルシャナの言葉に納得し頷いて居たその時、ある違和感を感じた。
今、確かに私達武姫と彼女は言った。
「もしかしてルシャナさんも武姫とやらなんですか?」
「ええ、今から行く育成機関に居る女の子は全員武姫よ、それより早く着替えて」
そう言い背を向けるルシャナ、完全に下着姿なのを忘れて居た。
「す、すぐ着替えます」
そう言いワイシャツを着て制服を着るとスカートを履く、何もかもが初めて尽くし……スカートの開放感、ハマりそうだった。
シワを伸ばすと背を向けて待ってくれて居るルシャナに声を掛ける、するとこちらを振り向きジーッと顔を見つめた。
「な、なんですか?」
「ちょっと来て」
ルシャナに洗面所へと連れて来られると長く伸びた髪の毛を横に持ち上げ輪ゴムで結びツインテールにした。
「やっぱり、貴女この髪型の方が似合ってる」
そう言い微笑むルシャナ、完全に某ボカロキャラの様な見た目だが……悪くは無かった。
「あ、ありがとうございます」
「良いのよ別に、それじゃあ博士も待ってるし行きましょ」
ルシャナの言葉に頷く、昨日まで完全に青春などは諦めて居たが少し希望が湧いて来た。
制服を着たと言うことはつまり学校があるという事……青春は終わってなんか居なかったのだ。
しかも初日からルシャナと言う美少女と知り合えた、これから向かう育成機関とやらが楽しみだった。