第11話 秘密
一面に広がる白い天井、フカフカとした背中の感触……ふと隣を見ると有栖川が心配そうに立っていた。
「気がつきましたのね!?」
忍が目を覚ましたのを確認すると一安心する有栖川、記憶が少し飛んでいて何が起きたのか分からなかった。
「柳花に勝って……それからどうなったんだ?」
「久留沢さんにボコられたのを覚えて居ませんの?」
「久留沢……?」
全く記憶に無かった、それに所々身体が痛む……ルシャナにやられた時は1日である程度回復して居たのだが傷の具合を見る限り1、2時間しか経って居ないと言ったところなのだろう。
「そう、久留沢 鳴華、貴女をボコボコにしてそのまま優雅に優勝、Cクラスで現状一番Bに近い生徒ですわ」
「優勝って事はシルフィとかお前も負けたのか?」
「ええ、そうですわ……と言っても私が負けたのはシルフィにですけど」
少し悔しそうな表情をして言う有栖川、正直二人の実力がどれ程の物か分からないが優勝したと言う事実が確固たる実力を物語って居た。
とは言え記憶が無くなるまでボコるとは久留沢……危険人物リストに入れておいた方が良さそうだった。
「そう言えば柳花は?」
危険リストでふと思い出す、柳花に殴った事を謝って起きたかった。
「柳花さんならもう教室ですわよ、忍も大丈夫なら帰りますわよ」
そう言い立ち上がる有栖川、何故自分だけ呼び捨てなのかは分からないが多少距離感が近くなっている様だった。
ゆっくりとベットから降りて医務室を出ると静かな廊下を有栖川に付いて歩く、今思い返せば戦闘中に語り掛けて来た声……夢?の中でよく出てくる金髪の少女によく似て居た。
似て居たと言うか本人だろう……だが何故向こうから語り掛けて来たのか、そもそも誰なのか……いや、その答えは大凡検討は付いている。
武姫の特殊な武器に宿る魂とやらなのだろう……だが分からないことが多かった。
「なぁ有栖川、なんか……武器から声とか聞こえたりするか?」
「武器から声?まだ頭の調子でも悪いんですの?」
忍の質問に有栖川は疑問符を浮かべ、まだ戦いの影響が残っているのでは無いかと心配する、少し馬鹿にされている様な気もするが……頭の中で声がすると言う現象が異質な事は分かった。
幻聴……その可能性もあるが男が武姫になった特殊なケース、そしてその日に見た夢……様々な事を考えると自分が特別なのでは、そんな気がした。
まるでラノベの主人公の様に。
チートな力が、周りとは違う特別な能力が自分には備わっている……そんな希望が湧いて居た。
いつ開花するのかは知らないが。
「まだ頭の調子が悪いみたいだな」
有栖川の言葉に忍は当たり障りのない返しをして微笑む、自分が特別……そう思うと一気にこの学校生活が楽しみになって来た。
Cクラスの落ちこぼれからSクラスへの下克上、逆転劇、どんでん返し……兎に角気分は高まって居た。
ふと顔を上げると1-Cが目の前にあった。
気が付かない内に到着して居た様だった。
「早く寮に帰りますわよ」
既に誰も居なくなった教室に足早で入ると忍の荷物と自分の荷物を持ち出て来る、そう言えば今日は試験だけだった事を忘れていた。
だが寮に帰るのは少し気乗りしなかった。
テレビはあれど寮は海の中……正直嫌だった。
「うー、あー」
有栖川の言葉に駄々をこねる子供の様な表情をする、一人は死ぬ程寂しかった。
「さ、帰りますわよ」
忍の手を引き帰路に着く有栖川、気が滅入る、足取りが重かった。
エレベーターは帰りたくない忍の気持ちとは逆に下へと下がって行く、だが想定して居た時間よりも早く到着を告げる音が鳴った。
「え?寮って地下じゃ無いのか?」
予想に反して、ずっと来たいと思っていた街に着いた事に忍は困惑していた。
そして地下に寮があると言った忍に対して有栖川も困惑していた。
「地下なんてありますの?」
有栖川の反応……恐らく彼女達は何も知らないのだろう。
Dr.ラゲリックの名を出して確かめる事も出来る、だがそれは賢い選択ではない様な気がした。
ルシャナが居たと言う事は一見喋っても良い様に見える、だが彼女はこの組織に何らかの形で関係しているとしたら、話すと何かまずい様な気がした。
そもそもこの街、武姫に人権が無いと言って起きながら存在するのは少し違和感がある、ラゲリックは職員や『武姫』が息抜きをする為に存在すると言った、つまり武姫はそれ程酷い扱いを受けては居ないと言う事だった。
そして有栖川が地下の存在を知らないと言う事、恐らく組織が武姫には伝えて居ない秘密の場所なのだろう、何故秘密なのかは分からない、だが秘密にする理由は絶対にあるはずだった。
武姫に伝えて居ないと言う事は知られるとマズイ理由……だが今の自分は組織の管理下に置かれている、下手に話せば消される可能性もあった。
「ごめん、まだ少し混乱してるみたいだ」
そして俺は嘘をついた。
「そう……ですの、それじゃあ帰りますわよ」
少し戸惑いつつも有栖川は慣れた足取りで寮へと向かう、お洒落なカフェ、洒落た雑貨屋……普段なら目を輝かせて居たのだろうが今はそんな気分では無かった。
何故地下がある事を隠すのか……見つかると不味いものを隠している、その可能性は大きかった。
だが……敵は魔女と言って居た、敵を騙すなら先ずは味方からとも言う……分からなかった。
「着きましたわよ」
目がグルグルになる程思考を巡らせていると有栖川の声が聞こえる、ふと顔を上げると目の前には新築のそこそこ立派な四階建てマンションが建って居た。
数字式のロックを外し自動扉を潜り、少し廊下を歩いた先にある扉を開くとロビーで上級生や下級生を含めた様々な生徒がくつろいで居た。
忍は咄嗟に目を逸らしてしまった。
何故か……理由は皆制服では無く、ラフな格好をしているからだった。
中には下着のズボラな女子生徒もいる、元男子としては嬉しいのだが直視出来なかった。
「何してますの?」
「あぁ……ちょっと首を動かしたくて」
そう言い首を右へ、左へと回す、その時ロビーの端っこに部屋割りの様な物を見つけた。
少し離れた場所だが視力のお陰で見える、部屋は4階の一番端、405号室だった
「そ、それじゃあ有栖川、またな!」
部屋が判明するや否や、忍は光とも思える速さでエレベーターでは無く階段を駆け上がって行く、そして405号室の扉に手を掛けると鍵は掛かって居なかった。
扉を開け中に入る、カーテンは閉め切られ部屋は真っ暗だった。
「電気何処だ……」
電気の在り処を手探りで探して居たその時、人の声がした。
「新咲忍……秘密を良く守ったな」
少し変だが男の声だった。
「誰……だ?」
大声は出さなかった、言葉を聞く限りラゲリック絡みと判別出来たからだった。
「それは秘密だ、だから部屋を暗くしている……それより私が此処に来た理由は一つ、お前の力についてだ」
「俺の力?」
謎の男の言葉にテンションが高まった。
「詳しい事は言えないが能力が発現しても使い過ぎるな……ラゲリックからの伝言だ」
「どう言う……おい!!」
男はそれだけを告げて姿を消す、それと同時に部屋の明かりは灯された。
明るくなった部屋を見回す、すると玄関の下駄箱上に紙が置いてあった。
『色々と用意しておきました、ラゲリックより』
紙を持ち部屋を眺める、ピンク色のベットにペンギンのぬいぐるみが複数、そしてクローゼットには無数の洋服、テレビに家電製品……etc、用意し過ぎの様な気がした。
何より気になるのがペンギンのぬいぐるみ、何故好みを知っているのか……軽く恐怖だった。
「まぁ……こっちの方が落ち着くから良いか」
ペンギンのぬいぐるみが置かれたベットに寝転ぶと1日の疲れがたまって居たのか、まるで吸い込まれる様に眠りについた。




