第1話 起きたら美少女に
ぼちぼちと3.4日、もしくは一週間に一本くらいで投稿します
『先の見えない戦いにお前は何を望むーーーー』
深く魔導師の様な帽子を被り杖を掲げ叫ぶ一人の少女、コートは風に靡きバサバサと音を立てて居た。
下から彼女を見上げる視点……周りは見たことも無い草原、だが夢にしては妙にリアリティがあった。
『教えられた事が真実とは限らない……時に、真実とは闇の中にある事もある物だ』
鳴り響く銃声、少女から溢れ出る血飛沫……そして彼女が自分へと向けた微笑、その瞬間俺は目を覚ました。
呼吸が乱れている、シーツや服は汗でグッショリと濡れて居た。
「なんだよ今の夢、全くタチ……悪りぃ?」
目をこすりながら声を発する、だがいつもの声よりもやけに高く、可愛らしい声に耳を疑った。
「は?嘘だろ?」
混乱、困惑、戸惑い……いや、意味は同じ、今は何でもいい……問題は胸と局部に違和感がある事だった。
恐る恐る布団を巡り視線を下に落とす、だが直ぐに何事も無かったかの様に目線を戻した。
「これは……何かの悪い夢だ、そうだ!きっとそうに違いない!」
まるで催眠をかけるが如く何度も言い聞かせ自身を納得させる、普通に考えてみて欲しい……男が女になるのだろうか。
勿論手術などをすれば例外はあるだろう、だが俺はした記憶も無ければ女性になりたい願望も無い……神様とやらが居たとしてもそんな事は神に誓って願って居なかった。
一先ずベットから降りてフローリングに立ってみる、視点が低い、身長は20……いや、下手すれば25は下がって居た。
ふと自室に置いてあった全身が映る大きな姿見に目線を移す、鏡に映って居たものを見て絶句した。
長く伸びた水色の髪、蒼の瞳……元々男だった時の自分の面影はミジンコも無く、まるで別人だった。
「な、な……なんじゃこりゃぁ!?」
家の中に響く大声をあげその場に座り込む、あまりの驚き……サプライズに腰が抜けてしまった。
特に特徴も無く、可もなく不可もなしの顔だった俺が美少女を集めても上位に食い込むレベルの美少女になっている……これが驚かずには居られなかった。
「ちょっと、忍うるさ……」
母がフライパン片手に部屋の扉を開ける、そして視線が合うと同時にフライパンが地面へと落下して行くのが見えた。
(あれ、妙にスローだな)
ゆっくりと落ちて行くフライパンを横目に言い訳を考える、よく考えると今……非常にまずい状況だった。
息子を起こしに来ようと思い部屋の扉を開ければそこには謎の美女、息子は何処にも居らずその代わりに息子のTシャツとボクサーパンツを履いた少女が目の前にいる、パニックになるのは必至だった。
どうにか切り抜けれ無いものかと頭を悩ませる、ふと再びフライパンに目線を移すとまだ半分の地点だった。
明らかに遅過ぎる、かなり長考して居たつもりなのだが、もしかするとその類いの能力でも発現したのだろうか。
頬の口角が上がる、周りの時間、若しくは速度を下げる能力なのだろうか……こりゃまたラノベの様な展開で心が躍った。
勝手な妄想に心躍らせて居るとフライパンが落ちる音が聞こえる、そして母親が手を口に当てる……叫ぶ前兆だった。
「お、俺は14歳までおねしょをして居た!」
咄嗟に放った一言、その言葉に母は唖然として居た。
誰にも知られたく無い秘密で家族でも知って居るのは母だけ……それ故に口走った言葉なのだが、思い返すと余計に怪しまれる様な気がした。
「あ、いや……その、俺はちゃんと忍で……この身体は何というか……」
しどろもどろしながら指をクルクルと円を描くように回しては辞めを繰り返す、どうしようも無かった。
「なんかよくわかん無いけど……病院行きましょ?」
優しく微笑みかける母の笑顔……何故かそれが逆に辛かった。