第36話 おだ「家移り、病犬、夜郎自大」
「小学校の頃にな、灰色の犬がよく学校の周りをうろついていたんだ。
病犬、狂犬っていうほどに暴れたり吠えたりはしないけど、中ぐらいの犬。
それでも俺の学校では有名になった。
何人かすでに食べているとか、あのクラスの子が家移り、引っ越したのはあの犬のせいとか。
そんな噂ばかり広まった。
そうなると夜郎自大っていうの、自分が強いと思っている身の程知らずの子が退治に向かうのよ。
男子の集団が石ころ投げたりな。すると犬はすぐに逃げ出した。
逃げた犬を見て「退治した」と喜ぶわけだ。
ある日の平日。昼の学校にその犬が迷い込んできたんだ。
先生が学校から出ない様にっていうけど、いつも逃げる犬だから男子は皆、舐めてるの。
俺が退治しに行くとか、馬鹿な事を言い出した一人が出て行ったんだわ。
手に傘を持って、グラウンドの犬に殴りかかった。
そしたら犬が、その子の喉元に噛みついたんだ。
血が流れて噴き出す、しかも昼だぜ? 学校中の子供達の前でだ。
俺の所の受け持ちの先生が駆けつけて、そしたら犬もすぐに逃げて、噛まれた子供は病院行き。
俺たち全員トラウマ持ちになったわけだ。
それ以来、犬は行方不明。
五年後ぐらいに、あの犬はどうしたって話になるけど結局、誰も知らない。
ただうちのクラスメート数人だけの秘密で知ってることがある。
実は噛まれる五か月ぐらい前にな。
夜にあの犬を散歩する、うちの先生を見た事あるんだわ。
証拠もないし、犬をけしかけられるかもと怖がって誰も言わなかったけどな。
先生、捨てたのかな? それともけしかけたのか、それはわからん。
ただあの犬、証拠隠滅でもう死んでるだろうなってのは何となく皆、理解してた。」




