第1話 あだ君「愛児、愛妾、相生」
「ある男に、妻とは別に妾というのか? 養っている愛人である愛妾がいた。
男は妻の事は特に愛していなかったが、妻との間に生まれた男児はとても可愛がっていた。
男は愛妾と愛児は気にかけていたけれど、妻に対しては冷たかった。
それである日。妻が事故で死んだ。
男は妾を妻にするだろうと周囲が思っていたが、しかし一緒に暮らす事は無かった。
愛する息子と会わせたくなかったらしい。
こうして男は、家の外では妾を、家の中では息子を愛した。
相生っていうのは、いっしょに生長する事らしい。
その妾と男児も、まるで一緒に生長する木の如く生きていたそうだ。
会った事もないし、全く血のつながらない妾と男児だったのに、二人をそれぞれ見た人が言うには、見た目や雰囲気がとても似ていたらしい。
男がある日、事故で死んだ。
男児と妾はその後も生きていた。
似た顔で、似た雰囲気で、会う事も無く。
そしてある日、妾と男児が事故で死んだ。
同じ日に、同じ時間に、そして同じ場所で、同じ事故にあって死んだらしい。
きっと男は妻が邪魔で死んでほしかっただろうな。
そして妻は、自分を最後まで愛さなかった男に死んでほしかったんだろうな。
じゃあ愛された二人は何で死んだ?
死んだ妻が恨んでいたから? 死んだ男が早く会いたがったから?
それとも愛を独占したかったから?
そういや、相生ってのは夫婦が一緒に長生きするって意味もあるらしい。
夫婦じゃないから仕方ない。そういやドッペルゲンガーって、瓜二つの自分にあったら死ぬらしいな。」