CODE002:朝の射撃訓練
――東京から約368km程離れた沖合に浮かぶ島。
海面上の島の大きさはそれほど大きく無く標高423mだが、島そのものが外輪山となっており、海底から比高1100mの火山頂上部にカルデラができた島だ。
島外周部分は高さが50mから200m程度の海食崖で、砂浜は無く切り取られたように囲まれ、2020年頃には人口170人程が住んで居たと言われているが、海面上昇で島唯一の港が使えなくなり、島に渡る手段が空からだけとなって一時は住人がほとんど居なくなった。
他からの干渉を受けにくいこの島に、RHと呼ばれるリモータル・ヒューマンフォーム国内製造メーカーで四芒星形と呼ばれる4社
国内最大手で剣術や武術を得意とする機体が特徴の『神城重工』
女性的でしなやかなボディの機体が特徴の『アルテミス電鋼』
重装甲で強固な機体が特徴の『アグニ・テック』
RH最古参の企業で万能型過ぎて特徴が薄い機体の『三原製作所』
そのオペレーター育成及びRH次世代機の研究開発機関である四芒星形次世代技術総合研究所が4社合同出資で作られた。
4社からはテストオペレーター2名、メカニック1名、ナビゲーター1名の計4名が1チームとなりこの施設に集い次世代機の研究をするのだった。
◇◆◇◆
――A.D.2067年4月5日(火)AM07:40 四芒星形次世代技術総合研究所:射撃演習場
「ズヴァーーーンッ」
英国アキュラシー・インターナショナル社製スナイパーライフルAXMC (AX-family Multi Caliber) の銃声が鳴り響き、距離にして約1.2kmの狙撃は成功。
ボルトハンドルを後方に引き弾丸を込め、再び狙いを定め狙撃するが今度は風に流されて少し逸れてしまった。
再度弾丸を込め撃つのだが、力んでまたしても外してしまった……。
「1発目はよろしおす……でも2発目と3発目はあきまへん、チークパッドを肩にしっかり着けぇトリガーに掛ける指は優しゅうな」
「神城先輩アドバイスありがとうございます。しっかり先輩の背中を守れるように頑張ります!」
ボクは若宮龍彦。
今朝は同じチームのオペレーター、神城姫菜先輩に朝の射撃訓練に付き合ってもらっている。
神城先輩は神城重工の社長令嬢でチームの隊長。
普段はストレートロングの赤茶の髪をなびかせ、常に慌てず騒がずおしとやかな京美人だが、いざ戦場に出れば太刀を片手に片山伯耆流の流れを組む居合を使い、大胆かつ鮮やかな技の数々で人々を魅了する頼りになる存在。
……ちなみに銃を持ってもボクより全然上手く、結構肩身が狭かったりするのは内緒だ。
「姫菜ネエおはよぉ。」
先輩との幸せな時間を破壊するボクの天敵が現れた……。
彼女の名前は神城穂香、プラチナシルバーのストレートショートな髪にネコ耳アンテナが印象的なチームのナビゲーター担当で、あの口の悪さも相まってあまり似てないが先輩の3つ下の妹だ。
「そろそろミーティングの時間だよぉ そんなの置いて行こうぉ」
「もうそないな時間やろかぁ。ほな行きまひょかぁ 若宮はんもしまいやすてすぐ来はるんよぉ」
「神城先輩、朝の射撃訓練にお付き合いありがとうございました。」
こうしてボクと先輩との幸せな時間は天敵によって終わりを告げた。
ちなみにボクは神城重工のRHオペレーターで、スナイパーライフルをメインに神城先輩のサポート担当している。
RHオペレーターなのになぜリアルの生身で朝練してるかと言うと、RHは並行遠隔存在拡張機器で精神アクセスし操作するがゲームとは違ってコマンド入力が無い為、どれだけ自分の思考で動きを伝達できるかが強さに結びついてくる。
ボクは旧世代のFPSが得意でゲームの中での照準力はあったが、リアルでは銃を使った事がない為に重さや衝撃などを訓練して身に付けているところだ。
さて、ボクも片付けてミーティングに遅れないように行かなくちゃ!
◇◆◇◆
――A.D.2067年4月5日(火)AM09:00 四芒星形次世代技術総合研究所:神城重工ミーティングルーム
「皆はん集まりましたね。ほなミーティングを始めまひょ」
「本日は1000よりRHの同時並列適合値計測。
1300より1600までアルテミス電鋼との模擬戦が予定されてるよぉ」
神城先輩の号令に続いて、先輩の妹でナビゲーターの神城穂香が予定を説明した。
「当初姫菜先輩からの予定でしたがRH強化外装更新作業が少し押してて、若宮さんから適合値計測させて欲しいっす」
今変更のお願いを申し出たのはメカニック担当の洲上和音。
歳はボクの一つ下だけど四芒星形に来たのは同期で、男同士と言う事もあって仲良くしている。
「しょうがおらへん、ほな若宮はんからはじめておくれやす。 終わり次第ウチもはじめやす。」
「アルテミス電鋼のRHとオペレーターの情報はサーバーに上げてるので見ておいてよねぇ」
「他になければミーティングをしまいまひょ」