76 最後の日
青い風が吹く惑星での最後の1ヶ月はあっという間に過ぎた。これは僕が土壌調査のレポートを書いたり受験勉強をしたりと忙しかったというのもあると思う。
それでも、夜コテージに戻ってサニアと話しをする時間はあった。サニアの話しは刺激的で面白い。僕はサニアとならいつまでも話をしていられると思う。
そして、とうとう最後の夜がやってきた。
その日の夕食はいつもよりちょっとだけ豪華で、所長のリリシャは、故郷の惑星に帰ってからもがんばってくださいという挨拶をした。
僕たちはその挨拶を黙って聞いて、所長が期待していた成果を出せなくて残念に思った。B計画で人類の繁殖が可能になるとか、信じている人がいったいどれだけいるのか知らないけれど、少なくとも所長はそれを心から願っていたはずだ。
僕たちがちょっとしんみりしたところで夕食は終わり、僕とサニアはコテージに戻ってきた。
サニアは今夜も合成オレンジジュースだった。
これ、水が違うと随分味が違うのよ。
そういうサニアに
「うん、コーラもコーヒーもだよね」と言うと、
コーヒーはデカフェというのもあるかもしれないわ、という返事が返ってきた。
なんだ、最初からデカフェだと気が付かなかったのは僕だけか。
「僕はここの水が飲めなくなるのが残念だ」
そうねぇ、この惑星で過ごした日のことは、故郷の惑星に帰って何年、何十年たってもきっと懐かしく思い出すと思う。
「僕は最後にサニアと沢山話せてとても面白かった。なんというか、刺激的だったよ」
ありがとう。私もジェイミィといて楽しかった。ジェイミィは私が何を言っても否定から入ることをしないから、私はジェイミィが好きだったわ。
「え?」サニアは予想外のことを言った。
ジェイミィがもし大学に行って同じ階級になるなら、結婚しても良いと思うぐらいにね。
僕も大学に行けるんだ!サニアと同じ上流階級になれるんだよ!
僕は叫びだしそうになったけど、なんとかそれを我慢した。
それは言ってはいけない台詞。所長に止められているということだけではなく、それを言ってしまったら、サニアを1年待たせてしまうことになる。
それでなくても僕たちはすでに19歳になってしまっているというのに。
だから、僕は。
「ありがとう」
ようやくそれだけを言った。
次の日は、2人でコテージを掃除して荷物を食堂に持って行って説明を聞いた。
この後、僕たちは簡易宙港まで歩いていって、すでに到着している宇宙船の中でコールドスリープの容器に入って眠りに付く。
この惑星に来たときと同じ手順だ。
僕たちは、1年前にこの惑星に来たときと同じように黙って1列になって歩いた。言いたいことは沢山あったけどどれもこれもいざ口に出すと陳腐な言葉になりそうで、僕も黙って歩いた。
そして目の前に宇宙船が見えてきたとき、僕は靴の紐を結びなおすふりをしてわざと列から遅れて後ろのほうを歩いていたアウラと並んだ。
「どこの大学に行くの?」
小声でそう聞いた僕にアウラは、
R-1ユニバーシティ。
そう教えてくれた。
「また会いたい」
僕がそう言うとアウラは微かに頷いてくれた。
宇宙船に着いた僕たちは、1人づつ白い細長いカプセルの中に横たわり、顔の前の蓋が閉じられ、シューッという音と共に意識が遠ざかっていった。
完結しました。
お付き合いありがとうございました。
しばらくお休みをしたあと、続編の「惑星~オレンジの空の星~」を書く予定です。
まあその前に全然違うものを書くかもしれませんが。




