72 ずるい人
次の日、朝食後僕はアウラを呼び出した。
ラボで話そうと思ったけれど、ラボには誰かがいる気配がしたので、僕たちは所長のコテージのさらに北側のなにもないあたりに行った。
途中で食堂のほうへ向かう所長とすれ違ったけれど、彼はアウラが僕を説得してくれようとしていると思ったのか、嬉しそうな顔でこんにちは、と言った。
「今回の話、僕は今迷っている」
僕はアウラに正直にそう言った。
うん。
「僕の希望としてはもう1年やって、あと500万コインもらって大学に行きたいと思う。でもそうなるとエリナが、、、」
ジェイミィはエリナと結婚したくてここに来たんだったわよね。
アウラは僕の話を覚えていてくれたようだ。
「僕は昨日所長から話を聞くまでは参加報酬の500万コインで専門学校に行きたいと思っていた。でもそうなるとエリナと結婚するのはむずかしいかもしれないし、
だいたいエリナが今でも僕を待っていてくれるとか限らない」
うん。
「まあそこは、故郷の惑星に帰ってエリナと話してみてから決めればいいと思っていたんだけれど、次も参加するとなるとそれもできないし」
ジェイミィは今では結婚したいほどエリナのことが好きというわけではないのね?
その質問にすぐさま「そうだ」と答えるのも「違う」と答えるのも僕には憚られた。
「まあそういうことなんだ。だからと言ってエリナに何も言わずに第5次に参加するのもどうなのかと思って」
ジェイミィが心変わりしているのならエリナの意見を聞いても聞かなくても同じじゃないの?
「ええっ、でもそれは、、、」
ジェイミィは自分が悪者になるのはイヤなのね。
アウラはけっこうハッキリものを言う。
でも言われて見ればそうかもしれない。僕はずるいんだ。
まあもう1年待って欲しいといったらその子も19歳になっちゃうしね、ジェイミィは待ってくれたのに自分が待たないのはジェイミィに悪いとかヘンな風に考えてしまうかもだし。
例えジェイミィと結婚したとしても、もし長いこと子供が出来なかったりしたら、ジェイミィが他の惑星に行ってたせいかも、それは自分のせいかもってキリがない。
だったら、昨日所長が言ってたように、「B計画に、またはその後ろにいる政府に強制的に次にも参加させられることになった」という手紙を書けばいいんじゃない?
こう言えばさ、もしエリナが今でもジェイミィと結婚したいと思っていたとしてもジェイミィのことを悪く思わないで諦められると思うの。
政府に強制されたとなったらしょうがないって。
それにもし彼女が心変わりしていたとしても自分を責めずに済む。
「それってずるくない?」
私はずるいわよ。
ま、今私が言ったのは、私がジェイミィの立場だったらそうするって意味よ。
私は先に戻るわ。とアウラは去ってしまった。
そうだなぁ。アウラの言うようにするのがいいのかもな。そうすれば誰も悪者にならずに済む。
僕がだらだらとそんな事を考えていたら、向こうからヤコブが歩いてくるのが見えた。
そう言えばこの先にちょっと地面の色が濃くなっているところがあるんだった。
以前、何だろう?と思ったけどそのままになっていたところだ。ヤコブなら何か知っているかもしれない、僕はそんな軽い気持ちで聞いてみた。
ここはお墓だ。
ヤコブはそう言った。
ああ、ここの施設の建物を作っているときに起きた事故の。
ヤコブはその地面が少し黒くなっている所の前に立つと姿勢を正して目を閉じた。
祈るという文化は無くなって久しいけれど。




