63 オレンジジュース
最後のパートナーチェンジの日が来た。この日は、今までのパートナーチェンジの日とは違い、浮ついた空気はない。
まあ相手はもう決まっているんだから当然か。
僕のペアはサニアだ。2人で10番のコテージの鍵を受け取った。
サニアとペアになるのは楽しみであると同時にちょっと怖かった。
サニアと話すのは楽しいと思うけど、僕があんまりくだらないことを言ったらきっと馬鹿だと思われそうで。
まあすでにそう思われているかもしれないけれど。
コテージに落ち着いて荷物を解く。歯ブラシはシャワールームに、着替えは寝室のクローゼットに、もはや手馴れたものだ。これが最後かと思うと感慨もわくけど。
そして10番のコテージのカーテンは青だった。
ソファに座る前にいつものように聞いてみる。
「コーヒー飲む?」
あー、そうね、今はオレンジジュースの気分かな?
「じゃあ僕もコーラにするよ」
連れ立って食堂に向かう。今夜は雨が降っていなくて、生暖かい風が吹いている。
「ここでオレンジュースを飲む人は初めて見た」
僕がそう言うとサニアは合成オレンジジュースは子供が飲むものというイメージがあるからねぇ、と答える。
僕だって、コーヒーをブラックで飲むようになったのは合成甘味料と合成ミルクパウダーを入れるのは子供っぽい気がしたからだ。
食堂にはやっぱりケイトがいて、
「こんばんは」
暖かくなってきましたね。
僕たちはそんな会話を交わしてコーラとオレンジジュースを入れてコテージに戻る。
ここの気候はホントにいいわねぇ。
サニアが言う。
私が住んでいたD地区はもっとずっと寒かったの。
「そうなんだ。でも夏はそんなに暑くないんだろ?」
まあそうだけど、冬寒いのはツライわよ。雪とかも降るし。
「雪!僕は映画でしか見たことが無いよ」
あんなにキレイなものじゃないわよ。
そうなのか。真っ白でキレイなイメージしかないけどな。
それよりも。
サニアは続ける。
D地区って居住区としてはけっこう古くて、建物も古いものが多いのよ。だからD地区を農地にするという計画がある。
「え、それじゃあ住んでいる人はどうなるの?」
もっと寒いところに引越し。正確には近くの貧民窟の人たちをもっと寒いところに追いやって、そこに居住区を移すらしいわ。
「それはちょっとひどくない?」
だいぶひどいわよ。作物もできないぐらい寒いところに人間を追いやるなんて。
「はあ、たまらないな」
そういうこともしなければどうにもならないところまで来ているのよ、あの惑星は。




