59 カウンセリング
コテージの外に出ると霧のように細かい雨が降っていた。この惑星では雨は夜だけに降る。
この惑星は気温の変化は少ないけれどそれでも季節が変わったのでこの前のような冷たい雨ではなく、湿度が高くて蒸し暑いぐらいだ。
食堂に行くとやっぱりというかなんというかケイトがいた。
「こんばんは」そう言って僕はコーラをプラスチックのコップにそそぐ。
そんな僕にケイトは、フランはどうしてるの?と聞いた。
僕とフランがケンカとかして僕がここに1人で来たと思ったのだろうか?
「フランは今シャワーを浴びています」
まあ嘘じゃない。
そう。そう言ってケイトは本物のガラスのグラスに少し残っていたソーダを飲み干した。
それに合わせてケイトの白い喉が動いた。
僕はそれを見てから、ケイトの隣に並んでカウンターにもたれた。ケイトはしばらく何も言わずに手元のガラスのグラスを眺めていたけれどやがてその視線は僕を捕らえた。
僕はその時まで、こんなにいろいろとケイトに言うつもりはなかったけれど、ついつい話してしまった。
「僕は何をすればいいのかわからなくなっています」
それはここで、の話じゃないわよね?
「はい」
僕は言葉を選びながら話し始めた。
「なんか、このまま故郷の惑星に帰って、どこかの工場に勤めて、誰かと結婚して、というのはなんか違う、と思い始めたんです」
うん。
ケイトは短く相槌をうちながら聞いてくれるけど、ここであんまり僕が国のやり方に疑問を持っているなんていうことを知られるのはよくない気がして、
「ここにはすでにちゃんと将来のことを考えている人が多くて、なのに僕は何が出来るのかがわからなくて、ちょっと焦っているんです」
なんか一般的な高校生の悩み相談みたいになってしまった。
やりたいことはないの?
ケイトは柔らかく聞いてくれる。
「最初にここの惑星に来たときは、僕には1歳年下の彼女がいて、僕が故郷の惑星に帰ったら彼女も18歳になるし、その子と結婚しようと思っていたんです。
でも、参加報酬の500万コインで専門学校に行くというのもいいかもと思って、けど専門学校と言っても進みたい方向もわからないし、専門学校に行ったら僕は技術者階級で、階級が違う相手と結婚するのは後々子供の学費問題とかありそうだし、僕は本当に彼女と結婚したかったのかということもなんか疑問に思い始めて、、、」
要領を得ない話し方だったと思う。
でもこんな時、高校に1人いたスクールカウンセラーなら、そんなことを考えてはいけないとか言うんだろうな。
故郷の惑星に帰ったら普通にエリナと結婚してどこかの工場に勤めるべきだと言うと思う。
ケイトはしばらく黙っていたけど、やがてこう言った。
今は、悩めばいいんじゃない?
そうか、僕は誰かに聞いてもらいたかっただけだったんだ、そう納得した。
誰かに、というとまず思い浮かべるのはサニアだったけど、彼女に自分が弱いところを見せたくないというか、馬鹿だと思われるのはイヤだった。
僕はなんかちょっと気が楽になった。
「ありがとうございました」
そう言ってコテージに戻った。
明日2月28日は更新をお休みします。




